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モニターに絶え間なく文字が打ち込まれていく。
黙々と業務をこなしていると、馴れ馴れしい手付きで肩を叩かれる。六郎はゆっくりと田崎を見上げた。
「調子どう?」
親しみなのか、嘲笑なのか、判別しにくい笑みを浮かべている。
「もうすぐロキサスRのページ終わりますよ」
「え、もうそこまでいったの? やるじゃん」
田崎は大げさに驚く。
「竹下くん、最近仕事もできるようになったよね。前より感じいいし。何かいいことあった感じ? 女できたとか」
田崎は語尾に笑いを含める癖があった。部下に怒っていると思われるのが嫌で、つとめて愛想よくしようとしているのだと、六郎は最近になって気付いた。
「彼女はいないですけど……」
六郎もわざとらしくない程度の笑みを顔に作る。
「最近、ようやく自分が人生に主役になれた気がするんですよね」
「へぇ、いいじゃん」
田崎は、部下の言葉の意味をあまり深く考えなかった。
定時になり、六郎は会社を出る。満員電車に揺られ、駅から自宅までの道中、つい、路地裏やマンションの屋上に目がいく。
アパートにつき、階段を二段飛ばしで上がる。玄関の扉を開け、靴を脱ぎ、六郎は部屋の明かりを点ける。
テーブルの上には、一通の手紙が置かれていた。
六郎はレターナイフで手紙の封を切り、中から一枚の紙を取り出す。
渇望を胸に秘めたものよ
偽りの仮面を引き剥がせ
この仮面が 本当のお前を解き放つ
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