ACT.1

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ACT.1

【英雄】 荒廃した城の中、魔笛皇帝が笛を吹く。どこまでも重く響き渡る音色は、世界の終演(フィナーレ)を告げるプレリュードである。 (いかづち)が暗闇を引き裂いた。山が割れ、地鳴りが轟く。 「何も変わらない。何も救われない。ただ醜態をさらし朽ちていくだけのこの世界に、私が終止符を打とう」 そのとき、魔笛皇帝の後ろに、天空から指す光が指した。 その光芒の中で、一人の戦士が立っている。 「世界は終わらせはしない!」 翼のようなマントを翻し、傷だらけの飛翔剣を構えるのは、魔笛皇帝に葬り去られたはずの英雄、エイジだった。 「往生際の悪い。ようやくこの世界にピリオドが打たれるというのに、無粋なことをするものだ」 魔笛皇帝の台詞は冷徹で、怒りも侮蔑もない無感情なものだった。 「未来を掴むために必死で生きている人々が、今、この世界にいるんだ。彼らの意志を、誰にも邪魔させはしない!」 「いいだろう。お前の死を以て、この世界の大団円としよう!」 エイジが宙を舞い、飛翔剣が魔笛皇帝の破滅の笛(シフレ・ルーネ)と激突する。その衝撃が、世界の命運を決めるラストスタンドの始まりを告げた。 エイジの肢体が空を翔ぶ猛禽のように舞い、魔笛皇帝に剣撃を繰り出していく。しかし、魔笛皇帝はその攻撃をものともしない。闘いが進むにつれ、エイジは追い詰められていった。そして、魔笛皇帝の放った一撃を受け、エイジは膝をつく。 「これが世界の命運を決める闘いか……あっけない。つまならない。美しくない! お前を消して、一刻も速くフィナーレに進まなくては……」 魔笛皇帝がとどめの一撃を振り下ろす。 そのとき、エイジの名を呼ぶいくつもの声が聞こえた。 それは、エイジの脳裏によぎった、仲間たちの声だった。 魔笛皇帝の攻撃を紙一重で躱し、エイジは一閃を見舞った。 「まだ、終わりじゃない……!」 先までの劣勢が嘘のように、エイジが魔笛皇帝を攻め立てる。剣撃が起こした突風が魔笛皇帝を弾き飛ばした。 「なんだ、この力は……!」 「お前にはわかるま! 誰かのために命をかけられる仲間たち、穏やかな日々を願うたくさんの人々の想い……それを背負った俺は、もう一人で闘ってるんじゃない!」 天に掲げた飛翔剣が光を受けて輝いた。 「くだらん! そんな戯言が世界を腐らせたのだ。必ず、この私が滅ぼす!」 魔笛皇帝の笛が魔獣の唸りの如き音を響かせる。 最後の一撃を決めるため、エイジと魔笛皇帝は駆け出す。そして、閃光があたりを包んだ。 光の中から現れた二人は、お互いの得物を振り切っていた。 沈黙が世界を包む。 「せいぜい、この腐った世界であがくがいい」   笛を落とした魔笛皇帝は崩れ、闇の中へと消えていった。 こうして世界は救われた。 それを祝すようにテーマソングが流れ、会場は拍手喝采に包まれた。ステージの上にキャストが集合する。その中心でエイジ=門脇晶が汗に濡れた顔を輝かせている。 「本日は劇団SOLID STAND題六回公演「Across the Sky」にご来場いただき、誠にありがとうございました!」
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