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檻の中のバケモノ
やあ、こんにちは。
僕はバケモノ。みんなからそう呼ばれるんだ。
え、ちゃんとした名前かい? どうだろう……名前をつけられたこともないからね。君たちの名前はどうやってつけられたんだい?
そうか、親につけてもらうのか!
残念ながら、僕の親はとっくの昔に亡くなっているからね。僕にはもう名前をつけてくれる人はいないんだ。
なんでバケモノと呼ばれているかって?
それは僕が聞きたいよ。君たちはなんで僕をバケモノと呼ぶんだい?
……そうか、君も知らないのか。
僕は君たちのように長い髪や立派な歯を持っていない。それに、すぐに病気になるし、暑さや寒さも苦手だ。
僕から見れば、君たちの方がずっとバケモノみたいな存在なのにね。
おっと、気を悪くしたなら謝るよ。
ところで、なんで僕は檻に入れられているんだい?
いやいや、外に出たい訳じゃあないんだ。ただ純粋に疑問に思ってね。
僕は君たちを襲おうなんて考えていないよ。そもそも、僕の力じゃ君みたいな子どもにすら勝てないんだから。
それに、ここにいたら自分で食べ物を探す必要もない。雨風はしのげる。掃除しなくても係の人が勝手にしてくれる。
たまには君みたいに話しかけてくれる人もいるしね。
僕としては今の環境は満足なんだけど、檻に入れられてるってことは何か危険があるってことじゃないのかな?
……そうか、君も知らないのか。
もし良ければなんだけど、次に会う時までに、君たちの大人に訊いておいてくれないか?
やあ、また来てくれたんだね。
おお、大人たちから教えてもらえたのか!
それで、どういった訳で僕はここに入れられてるいるんだい?
……なるほど、僕の祖先たちがこの星を滅ぼそうとしたのか。
ふむ、君たちのように立派な身体ですらない僕ら『人間』がね~……
そもそも、星を滅ぼすってどういうことだろう?
ほほう、木を伐り倒して燃やしたり、地面を掘って燃える石を取り出したり、それらを使って凄く熱い火の塊を生み出したのか!
そんなものを使って何をしたんだろう。
え、人間同士の殺し合いをしたんだって?
不思議だね。君たちのような牙や爪があれば簡単に僕たちは死ぬのに、そんな火の塊が必要だったなんて……
それで、人同士の争いで星が壊れかけたのか。なるほどなるほど……
ん? 恐ろしくないのかって?
そうだね。たしかに恐ろしい話だったよ。自分たちの仲間を殺すために、そんな火を生み出したなんて……
でもさ、ちょっと気になってさ。どうしたらそんなに大きな火がおこせるのか、どうしたら自分は燃えずに相手だけを燃やせるのか、星が壊れかけるほどの火ってどんなに大きいのか。
あいにく、僕にはそんな方法はとてもじゃないけど思い付かないや。
おっと、そんなに怯えないでくれよ。君は数少ない話し相手なんだからさ。
おや、今日はもう帰るのかい?
……そうか、また気が向いたら遊びに来てくれないかな。他の動物と違って、僕ら人間は交尾の時以外は一人にされるんだ。実のところ、寂しくて仕方ないんだ。
……うん、わかった。それは仕方ないね。ありがとう。君と話せて楽しかったよ。じゃあ、元気でね。
あ、そうだ! 最後にもう 一つだけ教えてくれないか。
この施設の名前はなんて言うんだい?
そうか、『動物園』というのか。ありがとう。また会える日がくるのを願っているよ。
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