時をアントルシャ

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「うわ、埃っぽいな」 リビングに入った途端顔を顰めた拓也さん。 三年も放ったらかしにされた家だ。至る所で埃が層のようにうっすら積もっている。 「まずは掃除が最優先ですね〜。私部屋の窓開けてきます」 そう言ってキャリーケースを壁の傍において階段を登る。 踏み締めるように登っていたら、段差の高さや壁のシミの位置なんかがどっと蘇る。 あの頃の空気がそのままここにある。 それだけで胸がいっぱいになった。 階段を上がって一番手前、拓也さんの私室。 初めてここに入ったのは、トゥシューズにサインをしてもらった時だ。 それまでは「竹野さん」とすこしよそよそしかった拓也さんが、初めて「円ちゃん」と呼んでくれた。
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