時をアントルシャ

18/19
前へ
/81ページ
次へ
正直に言えば、ここに帰ってくることが怖かった。 やっと、進むべき道が見え始めたように思っていたのに、この家に帰ってきて過去に触れることで、また途方もない喪失感に襲われるのではないかと思っていた。 やっぱり耐えきれなくて、涙がこぼれた。 でも、ただひとつ違うのは、その涙が喪失感を嘆く涙ではないということ。 胸の奥にはじんわりと暖かいものが広がっていた。 だってここで過ごした日々は、悲しむための記憶ではないから。 私たちの始まりの場所。 私たちの、宝物(サクロヴィーシェ)なのだから。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

109人が本棚に入れています
本棚に追加