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拓也さんがその人を確認するなり、足を止めて振り返る。
「円ちゃん。俺、先に車取ってくるから、エントランスで待ってて」
「・・・ありがとうございます」
ん、と小さく笑って軽く私の頭に手を乗せた拓也さんは、先に階段を降りていく。
私は、階段で佇むその人の名前を呼んだ。
「愛ちゃん、待っててくれたの?」
そう言えば、抱えるように腕を組んでいた愛ちゃんが顔をあげた。
「ざまあみろって思った?」
唐突にそう言った愛ちゃんに目を瞬かせる。
「あんな大見得を切っておいて、まだプロにもなれてないんだって」
自嘲気味に笑って、レオタードの右胸についている小鳥遊の紋章を握りしめた愛ちゃん。
それは少しだけ気になっていたことだった。
愛ちゃんが身に付けていたレオタードは、小鳥遊のスクール部門で指定されているバレエ団の紋章入りのレオタードだ。
私が高校三年生の時、たしか愛ちゃんはバレエ団に入団がほぼ確定している、アブニーラクラスの中でもトップ組、”研修生”だった。
研修生は大抵一二年でアブニーラを卒業して、バレエ団の団員になるのが当たり前だった。
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