エッセイ こしあんが来た日 1

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12月の寒い日の夕方、いつものように帰宅していると小さな黒猫が電柱の脇で丸くなってうずくまっていた。私がそーっと近づくとこちらを見て、消え入るような声で「にぃぃぃぃぃぃ」と泣いた。いや、鳴いた。 見た感じ両手に乗るくらいのサイズで、子猫なのは間違いない。周りに親猫がいないかキョロキョロと探してみたがいない。どうやら捨てられたのか虐められたのか、悲しくて動けないようだ。 ちょうど私は二十年近く一緒に暮らしていた猫と二ヶ月前にお別れしたばかりで、しばらく猫とは仲良くできないとは思っていた。しかしさすがにこの状況で放っておくわけにもいかない。 「捨てられたのか?」 わかるわけない言葉を黒猫にかけた。 「にぃぃぃ」 まるで絞り出すような声で返事した。いや、さっきの泣き声より弱い。しかし人間を怖がらない。もし野良猫だとしたらこんなに人懐っこいわけがない。どこかの飼い猫が迷子になっているのかもしれないがこの寒空で一人あの声で鳴いてたら凍えるかもしれない。連れて帰るか? もしこれが家出少女だとしたら、家に連れて行くのは限りなく犯罪行為だが、猫の場合は素敵な言葉がある。 保護。 飼うわけでない。 保護なのだ。 というわけで、凍える黒猫をタオルで包み込み、自宅に保護した私であった。
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