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部屋にかざられた2枚目の写真。
それは、花畑の中で撮られた、花束を抱える男の子と花冠を被る女の子の写真であった。
この写真が撮られた日、彼らはすれ違い喧嘩をして帰路についた。次の日、男の子は一晩中考えてやっぱり謝ろうと仲直りを決意して再び同じ花畑を訪れた。
しかし、女の子は、来なかった。
来れなかったのである。
女の子も男の子と同じように仲直りをしようと花畑に向かった。しかしその途中の道で事故に遭い、命を落としたのであった。
二人は仲直りをすることができず、永遠に喧嘩をしたままとなってしまったのだ。残された写真には、喧嘩をしてしかめ面となっている二人の子ども。
それから何年も経ち、男の子は青年となり大人になって結婚をした。妻となった女性には人一倍優しく接した。息子には素直に生きろと何度も言った。自分には喧嘩をしたまま仲直りができない子がいるからと。
息子は父親となった男の子に言う。
じゃあ、謝ればいいよ。
父親となった男の子は首を横に振って、その子とはもう二度と会えないんだよと悲しそうな顔をして言った。
男の子と女の子には、仲直りをするはずだった「明日」が訪れることがない。
男の子は後悔をしたまま一生を終えるのだ。
これが、現実の「真実」の話である。
さて、写真の中ではどうだろうか。
写真が現像され、動き始めたその夜のうちに男の子と女の子は仲直りをした。
女の子はいなくはならないし、二人とも昼間ではしかめ面で仲の悪い子どもを演じている。
何十年も現実の男の子が抱える後悔は、写真の中ではたった一晩で解決されてしまったのである。
毎晩毎晩花畑で飽きずに二人で遊び、現実で男性が結婚する頃には彼らは親友、いや恋人となっていた。
これが、写真の中の真実である。
もしかすると、女の子の事故さえなければ現実でもこんな結果になっていたのかもしれない。
そんな「もしも」は現実のどこを探しても見つからないのだが。
今日も朝がやって来る。
写真の中では男の子と女の子が名残惜しそうに繋いだ手をほどき、笑ってまた今夜ねと言い合って「喧嘩中」を演じる。
写真の中からは、香るはずのない花たちの香りが風に乗って運ばれてくるようである。
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