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気付けば自分の手が耳や尻尾を離れて、毛の覆われていない脇腹や胸を這っていて、実晴はぱっと距離をとった。
「もう撫でてくれないの?」と訴えるニアに背を向けて、実晴はシーツに1人で包まった。
ーー何て恥ずかしいことをしてしまったんだろう……。
記憶がところどころ曖昧なセックスの最中よりも、ニアの身体の至るところを撫で転がしていた行為のほうが恥ずかしい。
我を忘れるほどに激しく抱いてくれたニアの温もりが、少しずつ逃げていって寂しくなった。
実晴が晒した背中には、ニアの噛み跡が肩や背骨に散らばっていて、痛々しい傷になっている。
ニアは血が滲んでいるその場所に、鼻を擦り寄せ熱い舌を使って、歯形で窪んだ皮膚を舐めた。
「これがなかったら実晴を無理矢理番にしてた。俺も、他のアルファと変わらないね」
ニアは自嘲しながら、実晴を後ろから抱き締める。
まわされた右手の甲には、実晴につけたものよりも深く大きな傷があった。
まるでアルファという性に逆らった罰のようだった。
「違う……ニアは他のアルファとは違う」
自らの牙が深く食い込んだ手の甲に、実晴は傷を覆い隠すようにしてニアの手を握った。
「僕の名前を、初めて呼んでくれました」
名前を呼んでくれただけで、辛かったね、って言ってくれただけで。
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