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見合いの相手は、実晴が傷物であるにも関わらず借金まで肩代わりすることを了承したのだ。
実晴は行儀よく正座をしながら、アルファ一家の到着を待った。
廊下と部屋とを隔てる1枚の襖が開かれて、実晴はそちら側を見上げた。
獣人権が認められた世間では、頭の上にぴんと立った耳も今では見慣れたものだ。
えもいわれぬ美しい碧眼と視線がかち合った瞬間に、実晴の心臓の鼓動が今までにないほどに強くなる。
「は、初めまして。実晴と申します……」
甘ったるい色香に包まれ、実晴は自分の体温が緩やかに上昇していくのを感じる。
かつてのアルファとのお見合いの場でも、これほどまでにオメガの本能を揺さぶられることなどなかったのに。
発情した顔を俯かせると、実晴は瞬時に品のいい笑みを貼りつけた。
「俺は宝条 ニアです。今日はどうぞよろしくお願いします」
ニアは陽だまりのように微笑んだので、実晴は畳に三つ指をついて頭を下げる。
ーーシャム猫かな? 瞳の色がブルーですごく綺麗……。
刹那、実晴の脳裏に息も絶え絶えの、獣の姿をしたシャム猫が映し出される。
手のひらに生暖かいものが拡がっていくにつれて、その猫も苦しそうに瞼を綴じていて……。
「実晴……? どうしたの?」
「……え?」
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