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ニアのかけた声で、実晴の意識は浮上する。
いきなりの発情と身に覚えのない走馬灯に襲われて、すっかり顔色が悪くなっていた。
両家の顔合わせも早々にして、ニアは実晴と2人きりで話をしたいと言った。
宝条家の両親はニアの命令1つで下がり、別室を用意させた。
襖を閉めきると匂いが部屋中に籠り、余計に誘発されて正気でいられなくなる。
みっともない醜態を晒して、目の前のアルファを逃せば実晴の家族が路頭に迷うことになるのだ。
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。正座も崩してくれていいから」
実晴は答える余裕もなくなっていて、ふるふると首を振った。
「俺は薬で抑えているから平気だけど……実晴は違うでしょ。抑制剤は持ってる?」
手持ちはいくつか常備しているけれど、どれもまともには効いた試しがなく、副作用で辛い思いをするくらいなら、出来れば服用したくなかった。
実晴の様子を怪訝そうに感じたニアは、自分のバッグからペンタイプの抑制剤を取り出した。
「これ、オメガの発情を一時的に抑えるためのものだから。少しは気が紛れると思う」
「何、で……」
「緊急のときに使うために持ち歩いてるんだよ。……怪しむなら先に俺の腕に刺していいよ。アルファには意味のないものだから何にもならないけど」
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