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何故アルファのニアがオメガの抑制剤を持っているのか、初対面の自分にそこまでしてくれるのかは分からなかったけれど、目の前の正規の抑制剤は喉から手が出るほど欲しいものだ。
実晴はペンを受け取って、自らの太腿にそれを突き刺した。
「ありがとう……ございます」
薬を返そうとしたものの、ニアは「もしものときのために持っておきな」と言って実晴に譲った。
「俺、堅苦しいのは嫌いだから敬語はなしでいいよ。お腹空いちゃったから何か頼んでいい? 実晴は何が食べたい?」
今までお見合いで出会ってきたアルファは、そんなふうに実晴の好みを聞いてきたことがなかったので、素直に驚いた。
常に気品高く、誉れ高くあるのがアルファの性質だ。
ニアは人懐っこく、実晴に話しかけてくれて、時折黒い耳をぴくぴくと動かす度に、実晴の視線は吸い寄せられる。
「実晴、食べたいものない? お品書きにないものでも融通利かせてくれるよ」
「ニアさんと同じものでいいです」
「本当に? じゃあ、実晴もツナ缶ね」
ーーつ、ツナ缶!? ツナ缶ってあのツナ缶だよね……?
どうやっても料理の主役にはなれないツナ缶を、ニアは2人分頼んだ。
注文を伺いに来た女性も驚いた様子だったけれど、上客の一人息子であるニアの要望を断りはしなかった。
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