織 15歳 5月

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「織、帰るぞ」  教室に顔をのぞかせた陸の後ろで。 「……」  拗ねたような唇の森魚が、赤い顔してるのが見えた。  …何だか、さっきから違和感だらけ。 「じゃあね、舞」 「うっうん…」  固まってる二人を残して、陸とあたしは教室を出る。  階段ですれ違った先生に『今日は木曜なのに一緒に下校?』と、言われた。  …確かに。  あたし達は、毎週火曜日だけ一緒に帰る。  近所のスーパーで買いだめするから。  それ以外の曜日に一緒に帰るなんて…周りから見ても違和感…と。 「陸」  靴箱で履き替えてる陸の背中に声をかける。 「んあ」 「森魚が舞に一緒に帰ろうって、嘘でしょ」 「キッカケぐらいやってもいいだろ」 「先輩さよならー」 「おう」  人気者の陸に、後輩の女の子たちが声をかけてく。  あたしはまだ靴をはいてる陸の前に仁王だちして。 「何企んでるの?」  すごんだ。 「…は?」  前髪をかきあげながら、怠そうな顔の陸。 「火曜日じゃないのに一緒に帰るって」 「たまにはいーだろ。さ、帰ろう」 「……」  どう見ても、うさんくさい。  グラウンドを突っ切る陸の足取り、いつもより速いし。  「…ねえ、何隠してるのよ」 「何もないって」 「嘘ばっか」  唇を尖らせて陸の隣に並ぶと。 「織」 「何よ」  陸は校門を出る手前で突然足を止めて、あたしに向き直った。 「ここを出たら、うちに帰るまで後ろ振り向くな」 「…え?」 「それだけ」 「ちょちょっと、それ何よ…」  そんな事言われると…むしろ振り返りたくなる。  だけど、陸が珍しく真剣な顔してるから… 「ねえ…」 「黙れ」 「なんで?」 「いいから」 「あ、そ。教えてくれるまで帰らない」 「織」 「だって、陸おかしいんだもん」 「……」  陸は無言であたしの腕を引っ張ると。 「…尾行られてる」  小声で言った。 「え?」 「三人組の男」 「…それって…何…危ない感じ?」 「どうかな…とにかく、早く帰ろう」 「……」  歩くペースを陸に合わせた。  少しだけ後ろが気になったけど…陸の言うとおり、振り向かずに帰った。  いつも庭木戸から入って、鍵も掛けない縁側から家に入るのだけど…  今日は珍しく玄関から家に入って、一階も二階も鍵をチェックした。  カーテンを閉めて、その隙間から外を眺める。 「…尾行られてた気配って…あった?」  小声で問いかけると。 「途中から消えたかな」  陸は大きく溜息をついて、その場に寝転んだ。 「…もしかして…調査に来たのかな…」 「調査?調査って何……あ…」  あたしの言葉に陸は何か気付いたのか、顔をしかめてうなだれた。  あたしと陸は…この二階建ての家に二人で暮らしている。  昔は親戚と名乗る高齢の他人(これは後から判明したのだけど)と一緒に暮らしてたけど、そのばあちゃんが死んでからは、ずっと陸と二人きり。  その生活に疑問がなかったわけじゃない。  あたし達の身元引受人で、暮らしてる家の名義…甲斐正義(かいまさよし)。  ちなみに…一度も会った事はない。  だけど、身元引受人だもの。って事で…  あたし達は、この春…その人の名前を使いたいだけ使ってしまったのだった…。 ―――――――― 織ちゃんと陸君は7月7日生まれですが、タイトルでは四月始まりで満年齢にしてます
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