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「ストラーイク!!」
耳にツンとくる、ボールがピンを倒した音。
「マジか…また織ちゃんがトップ…」
森魚が恨めしそうにスコアを睨んだ。
今日は先生の研修会で二時間授業。
こうして、森魚と舞と陸とでボーリングに繰り出してる。
あれから尾行されてる気配はなかったし。
久しぶりの解放感。
「陸、負けたらあんたが今日の炊事当番ね」
「きったねー!!自分が勝つのが分かってから言うかー!?」
「えー?まだいけるんじゃない?」
「ターキー出しても無理だし」
「そーお?」
「くっそー…中間テストも学年トップの座を織に奪われたし、俺、天中殺かも…」
「ボーリングやテストぐらいで、何言ってんの」
あたしがスコアを見ながらつぶやくと。
「…聞いた?森魚…」
「聞いた。ボーリングはともかく、『テストぐらい』って…一度でいいから言ってみてー…」
舞と森魚が溜息をついた。
今回の中間前、尾行のせいで出掛ける事を控えた。
おかげでする事がなくて暇だったから、ギターの練習をしてる陸を尻目に勉強をしたら…思いがけず、全教科満点取れてしまった。
元々は、あたしだって頭がいい。
双子とは言え、姉だという所を陸に分からせないと。なーんて。
「あ、そう言えば」
一ゲームを終えて、家から持って来たというポッキーを鞄から出しながら、舞が何かを思い出したように言った。
「昨日、織ちゃんのこと聞かれたよ」
「は?誰に」
「カッコいい男の人達」
「……」
陸と顔を見合わせる。
まさか…
「それって……三人組?」
「うん」
「……」
「たぶんねー、芸能関係の人じゃないかな」
舞は、はしゃいだ声。
「げ…芸能?」
「二人ともモデルみたいだもん。髪の毛だって自然な茶色でかっこいいし」
それは、クォーターのせいだ。
美形とささやかれるのも、モデルをしていたという噂の母親のおかげだろう。
実際、あたしも陸も、学校帰りにスカウトされた事が何度かある。
それは、『タウン誌のモデルやらない?』から、有名なファッション雑誌のモデルまで様々。
ぜっ…………たい、受けないけど。
「俺が思うに、あれは…ヤ…だな」
森魚が、腕組をして言った。
「ヤ?」
「見るからにガラが悪そうだった」
「え?あたしに聞いて来たのは、カッコいい三人組だったよ?」
「はあ?アレのどこが。黒スーツの三人組だろ?」
「うん」
「あんな格好、葬儀屋かヤクザしかいねーって」
森魚の言葉に、あたしと陸はサーッと血の気が引いた気がした。
ヤ…
「織、おまえ何かしたのかよ」
陸が眉間にしわを寄せてあたしに言う。
…ちょっとちょっと。
「それ言うなら陸でしょ」
「俺?俺は最近は真面目だし」
「…この前、シャツに血つけて帰って来たの、忘れたとは言わせないわよ」
「あ」
あたしにそう言われて思い出したのか、陸はさらに顔を青くした。
「最近落ち着いてるって思ってたのに…まさか…」
あたしは頭を抱える。
「こ、こうなったらヤクザでも何でも来い!!」
陸が握り拳を作って力んだその時。
「二階堂織さん、陸君ですね」
後ろから、名前を呼ばれた。
ゆっくり振り返ると…もしかして、例の三人組…?
「一緒に、来ていただけますか?」
「……」
森魚が言った『ガラが悪い』は微塵もなく。
舞の言った『カッコいい三人組』が正解だった。
…けど。
「さあ」
有無を言わせない圧があって。
それは…あたし達に『逃げる』選択をさせないほどだった…。
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