織 15歳 5月

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「ストラーイク!!」  耳にツンとくる、ボールがピンを倒した音。 「マジか…また織ちゃんがトップ…」  森魚が恨めしそうにスコアを睨んだ。  今日は先生の研修会で二時間授業。  こうして、森魚と舞と陸とでボーリングに繰り出してる。  あれから尾行されてる気配はなかったし。  久しぶりの解放感。 「陸、負けたらあんたが今日の炊事当番ね」 「きったねー!!自分が勝つのが分かってから言うかー!?」 「えー?まだいけるんじゃない?」 「ターキー出しても無理だし」 「そーお?」 「くっそー…中間テストも学年トップの座を織に奪われたし、俺、天中殺かも…」 「ボーリングやテストぐらいで、何言ってんの」  あたしがスコアを見ながらつぶやくと。 「…聞いた?森魚…」 「聞いた。ボーリングはともかく、『テストぐらい』って…一度でいいから言ってみてー…」  舞と森魚が溜息をついた。  今回の中間前、尾行のせいで出掛ける事を控えた。  おかげでする事がなくて暇だったから、ギターの練習をしてる陸を尻目に勉強をしたら…思いがけず、全教科満点取れてしまった。  元々は、あたしだって頭がいい。  双子とは言え、姉だという所を陸に分からせないと。なーんて。 「あ、そう言えば」  一ゲームを終えて、家から持って来たというポッキーを鞄から出しながら、舞が何かを思い出したように言った。 「昨日、織ちゃんのこと聞かれたよ」 「は?誰に」 「カッコいい男の人達」 「……」  陸と顔を見合わせる。  まさか… 「それって……三人組?」 「うん」 「……」 「たぶんねー、芸能関係の人じゃないかな」  舞は、はしゃいだ声。 「げ…芸能?」 「二人ともモデルみたいだもん。髪の毛だって自然な茶色でかっこいいし」  それは、クォーターのせいだ。  美形とささやかれるのも、モデルをしていたという噂の母親のおかげだろう。  実際、あたしも陸も、学校帰りにスカウトされた事が何度かある。  それは、『タウン誌のモデルやらない?』から、有名なファッション雑誌のモデルまで様々。  ぜっ…………たい、受けないけど。 「俺が思うに、あれは…ヤ…だな」  森魚が、腕組をして言った。 「ヤ?」 「見るからにガラが悪そうだった」 「え?あたしに聞いて来たのは、カッコいい三人組だったよ?」 「はあ?アレのどこが。黒スーツの三人組だろ?」 「うん」 「あんな格好、葬儀屋かヤクザしかいねーって」  森魚の言葉に、あたしと陸はサーッと血の気が引いた気がした。  ヤ… 「織、おまえ何かしたのかよ」  陸が眉間にしわを寄せてあたしに言う。  …ちょっとちょっと。 「それ言うなら陸でしょ」 「俺?俺は最近は真面目だし」 「…この前、シャツに血つけて帰って来たの、忘れたとは言わせないわよ」 「あ」  あたしにそう言われて思い出したのか、陸はさらに顔を青くした。 「最近落ち着いてるって思ってたのに…まさか…」  あたしは頭を抱える。 「こ、こうなったらヤクザでも何でも来い!!」  陸が握り拳を作って力んだその時。 「二階堂織さん、陸君ですね」  後ろから、名前を呼ばれた。  ゆっくり振り返ると…もしかして、例の三人組…? 「一緒に、来ていただけますか?」 「……」  森魚が言った『ガラが悪い』は微塵もなく。  舞の言った『カッコいい三人組』が正解だった。  …けど。 「さあ」  有無を言わせない圧があって。  それは…あたし達に『逃げる』選択をさせないほどだった…。
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