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織 20歳 10月
「なんか、環が行ってから海がよく泣くな」
陸がそんなことを言いながら、海を抱える。
「…うん」
環がアメリカに行って三ヶ月。
確かに…海は環を探しまわったり…
探しても見当たらない姿に、泣いたりする事もある。
「顔色悪いな、織」
「…陸」
「ん?」
「あたし…」
「何だよ」
「妊娠してるみたい…」
あたしがそう言うと。
「……」
陸は絶句して海を抱えたまま、ソファーからずり落ちた。
「父さんも母さんも…産むなんて言ったら大反対するだろうね」
あたしが小さくつぶやくと。
「この、百発百中女め…」
陸は頭を抱えてる。
「…環には迷惑かな…」
「どうして」
「だって、きっと自分の子供だって気が付くと思うし…そしたら、あたしが一方的に迫ってそうなったのに…子供まで産まれちゃ…」
あたしが苦笑いしながら言うと。
「何言ってんだ。環、おまえのことずっと好きだったのに」
って、陸が呆れた顔で言った。
「え?」
「なんだよ、おまえ気が付かなかったわけ?あいつ、いっつもおまえの傍ににいただろーが」
「…だって、護衛だもん…」
「それにしても、だよ。みんな知ってたぜ?そんなことは。環の奴、クールなわりに肝心なとこで間が抜けてんだよな。顔にもろだし」
「……」
あたしは、呆然とする。
「ぜっんぜん気が付いてなかったのかよ」
「…うん」
「にぶすぎる」
「……」
「ま、確かに大問題だな」
陸は海をひざからおろすと。
「海、あそこの新聞とって来てくれよ」
って言った。
「親父がいくら環を好きでも、護衛の身だったんだからな」
「あたし…」
「ん?」
「この子を産んだら、お見合いする」
「おい…見合いなんてしなくていいさ」
「そりゃあ…違う男の子供を二人も生む女なんて、貰い手ないかもしれないけど…」
「待てよ、何かいい方法考えようぜ」
「ううん。あたし、この子を堕ろすなんてできない。だから…」
「……」
陸は何も言えなくなってしまって。
海が持ってきた新聞を手に取ることもできないくらいショックを受けてるようだった。
あたしは、自己嫌悪に陥りながらも。
環の子供を産みたい。
強くそう思った。
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