2,カリスマ

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 羽田光耀は、知る人ぞ知る特撮界のカリスマだ。顔出しの俳優ではなく、変身後のヒーローを演じるスーツアクター。シリーズ11作目である『ユーマニオン・マッハ』でレッドを演じるスーツアクターに抜擢(ばってき)され、それから5年間、続けてレッドのアクションを担当していた。  長身を活かした華のあるアクションが特徴で、スタッフロールで彼の名前をチェックしているファンは多い。それから特撮専門誌に何度かインタビュー記事が載ったせいで、彼はスーツアクターでありながら、ファンの間では顔が知られた存在になっている。  ところがどういうわけか今年、羽田光耀の名前がシリーズ最新作にクレジットされることはなく。怪我で休養しているとも、また何かしらの事情で業界を離れているとも(うわさ)されていた。 「羽田さん、またユーマニオンに出るんですか!?」  方向転換してエントランスの方まで駆けていき、俺は彼に問いかける。そんな俺に気づいたのか、マネージャーが向こうの方から俺を呼んだ。 「一月!? おい、オーディションは……」 「いつき……上岡一月か」  羽田さんが興味深そうに俺を見る。  彼に名前を知られているとは思わなかった。ファッション誌のモデルと連ドラの脇役くらいしか仕事歴のない俺の、名前を知っている人間はそう多くない。おそらく主演に内定したことが彼の耳にも入っているのだと、頭の隅で考えた。  そこで質問の答えが返ってくる。 「そうだな、出るには出るんだろうが……」  羽田さんが大股で来て、彼との距離がぐっと縮まった。 「レッドに入れるかどうかは、お前さん次第だな」 (羽田さんの出演が……俺次第?)  意味が分からずに、彼の瞳をじっと見つめる。 「主演の二番手に名前が挙がっているやつは、俺より10センチばかり身長が低いんだ。その点お前は俺と身長も変わんなそうだし……」  羽田さんが腕を伸ばし、背くらべでもするように俺の頭の上に手をかざす。 「線は細そうだけど、まあ許容範囲だな。お前のスーツなら、俺が演じられる」  口元に浮かぶ魅力的な微笑みを見ながら、俺は彼の言わんとしていることを理解した。
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