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最後にレッドはもう一度俺を抱き上げ、舞台上から観客席へと手を振った。
今思えば5歳の俺を1人にさせておくわけにもいかなくて、彼は俺を最後までそばに置いてくれたんだと思う。
理由はともかく俺はショーの幕が下りるまで、レッドに助けられた特別な子供でいることができた。
「さてと、お前んちはどこ?」
ステージの幕が下りたあと、レッドが俺に聞いてきた。説明に困っていると、彼は「送っていく」と続ける。
「えっ、もしかしてその格好で行くの!?」
アナウンス役だった女性が、ぎょっとした顔でこっちを見た。
「だって仕方ないだろ? マスクを取るわけにもいかねーし」
レッドは小声で言ったあと、俺に「なあ?」と同意を求める。
あの時は番組中、レッドの正体が秘密になっていたことを思い出して俺も頷いた。
けれど今になってみると、当然そのレッドはテレビの俳優とは別人だったわけで。俺をガッカリさせないために、マスクを取らないことにしたんだと思う。
そして彼は俺を家に送り届けるまで、人に変な目で見られようとけっしてマスクを取らなかった。
それから家でおろおろしていた母親に、俺と一緒に謝ってくれた。
彼こそがユーマニオンレッド、俺のヒーローだ。
抱き上げてくれた腕の逞しさ、家まで繋いでくれた手のあたたかさを、俺はけっして忘れることができない。
ヒーローを演じる者は、骨の髄までヒーローでなくてはならない。カメラの前で演じる者なら尚更だ。ヒーローとは関わる者たちが、そして観る者たちが作り上げてきた共通の夢であり、理想像なのだから――。
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