7,出会いの記憶

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 最後にレッドはもう一度俺を抱き上げ、舞台上から観客席へと手を振った。  今思えば5歳の俺を1人にさせておくわけにもいかなくて、彼は俺を最後までそばに置いてくれたんだと思う。  理由はともかく俺はショーの幕が下りるまで、レッドに助けられた特別な子供でいることができた。 「さてと、お前んちはどこ?」  ステージの幕が下りたあと、レッドが俺に聞いてきた。説明に困っていると、彼は「送っていく」と続ける。 「えっ、もしかしてその格好で行くの!?」  アナウンス役だった女性が、ぎょっとした顔でこっちを見た。 「だって仕方ないだろ? マスクを取るわけにもいかねーし」  レッドは小声で言ったあと、俺に「なあ?」と同意を求める。  あの時は番組中、レッドの正体が秘密になっていたことを思い出して俺も頷いた。  けれど今になってみると、当然そのレッドはテレビの俳優とは別人だったわけで。俺をガッカリさせないために、マスクを取らないことにしたんだと思う。  そして彼は俺を家に送り届けるまで、人に変な目で見られようとけっしてマスクを取らなかった。  それから家でおろおろしていた母親に、俺と一緒に謝ってくれた。  彼こそがユーマニオンレッド、俺のヒーローだ。  抱き上げてくれた腕の逞しさ、家まで(つな)いでくれた手のあたたかさを、俺はけっして忘れることができない。  ヒーローを演じる者は、骨の髄までヒーローでなくてはならない。カメラの前で演じる者なら尚更だ。ヒーローとは関わる者たちが、そして観る者たちが作り上げてきた共通の夢であり、理想像なのだから――。
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