10,波紋

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「なあ一月、お前は一種の天才だ。向こう1年はユーマニオンにかかりきりだろうが、そんなのはお前のでっかい未来への足がかりに過ぎない。来年は映画やドラマがばんばん決まるぞ!? 今までみたいなちょい役じゃなくて、当然主役だ! 大河、朝ドラ、そういうのからもお声がかかるかもな!」  それがマネージャーの夢なんだろう、彼の頬にはこらえきれない笑みが浮かんでいた。  彼は俺の右手をつかんだまま続ける。 「お前にとって羽田光耀は、良くも悪くも特別な存在なんだろうが……お前がスターになったって、あいつは黒衣(くろこ)のまんまだぞ? 張り合うような相手じゃなくなる。だからもう、あいつのことは忘れろ! 関わったって悪影響しかない。頭ん中から追い出せ。いいな!?」  強く言って、マネージャーの左手がようやく離れた。  俺はすぐに箸を置き、横に置いていた手ふきをつかむ。 「一月……!」  念押しするように、上から言葉を被せられる。 「あいつとは関わるな! 間違ってもプライベートな付き合いなんかするな」 「プライベート? 考えてもいなかった、そんな心配いらない」  俺はキッパリと言って、手ふきで手を拭いた。  けど俺も、大河や朝ドラに興味があるわけじゃない。俺はユーマニオンレッドになりたくて役者をやってきたんだ。そのあとのことなんか考えられない。  そんな思いの一方で、今の自分では雑念が強すぎて、ユーマニオンレッドのスバルが務まらないのも事実だ。 (マネージャーの言う通り、羽田さんのことを頭の中から追い出さなきゃいけない……)  けれど頭の中にある彼の姿はどれも鮮烈で、簡単にはかき消せそうになかった。
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