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教室に誰かが残っていると気づいたのは、職員室からの帰りだった。
透子は電気を消すため、廊下にカバンを下す。
木製の引き戸を横に開くと、窓際の一番後ろの席で、机に突っ伏したまま誰かが寝ている事に気づいた。
(え? そこ、わたしの席なんだけど)
なんとなく不快に思いながら、そっと近づく。
アッシュ系のツンツンとしたハリネズミのような髪に、白いカッターシャツの袖を肩の辺りまで捲り上げた格好。
ぶかぶかの学生ズボンは、伝説の先輩からのお下がりだと、自慢げに話していたのを聞いた事があった。
自分の机で寝ている人物が、クラスメイトの大和渚馬だと気づいた透子は、声をかけるのを躊躇う。
渚馬はクラスの中でも目立つ存在で、人の集まる中心にはいつも彼がいた。
勉強よりも楽しい事や騒ぐことが大好きなメンバーを苦手としていた透子は、特に渚馬を苦手をしていたのである。
(起きる前に帰ろう)
声をかけない事にした透子は、渚馬を起こさないようにそっと背を向けた。
しかしそういう時に限って、事はうまく運ばない。
「え……? 真崎さん?」
少しハスキーがかった声。
音を立てないように静かに立ち去ろうとしていた透子は、驚きのあまり心臓が飛び出しそうになった。
電気だけ消してさっさと帰れば良かったと思いつつ、観念して振り返る。
「起こしてごめん。電気……ついてたから」
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