物語のはじまりは流れ星の下で

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「だからお前は俺のものだ。」 途端にルナは眉根を寄せる。 (いや無茶苦茶なんだけど) 「さっきまでは目が覚めたら帰してやろうとも思っていたが。」 「なら今すぐ帰してよ。」 ルナの怒りと軽蔑に満ちた瞳を男は面白そうに見る。 「お前を気に入った。俺にそんな()を向けた者はいない。」 (変態じゃん....) 「それに..........。」 「?」 (......なんなのよ) 悪魔のような男だが立ち振る舞いは実に優雅。 善か悪かわからない。しかし状況は普通でないことだけはよくわかる。 「俺は生憎女に対して愛情を抱いたことがない。」 「は?」 (いきなり何?) いかにもモテモテのイケメンが言いそうな言葉にルナは嫌悪感しか感じなかった。 「..........でもお前なら。」  「...?」 (だからさっきから何なのよ。) 男はニッと悪戯な表情を浮かべる。 だがその直後エメラルドの瞳に一瞬だけ優しさが宿った気がした。 「あ......」 (いや.....気のせい?) 「私帰りますから。」 (とにかくこんな横柄な人のものになるだけは絶対に回避したい) 「へ?」 「え...?」 ルナは一瞬のうちに現実に引き戻された気がした。 (帰る..........どこへ?) ルナの大切な“居場所”はもうルナのものではなくなった。小さい頃からずっと「いつかは透のお嫁さんになる」と思って生きてきた。 だが今のルナにとっては、未来全てが悪夢でしかない。 しかももっと辛いのは、それでも2人が大好きで嫌いになれなかったこと。 2人の前で笑顔をつくり、心の中では負の感情が渦巻く。そんな自分が嫌でたまらない。 あそこにいたらルナはどんどん醜くなっていくだろうと本気で思った。怖かった。だから逃げた。 (帰りたいなんて思うはずない) 「お前は意識を失う前、死ぬことに対して『良かった』と言った。」 「.............。」 死に縋りたくなるほど弱り切っていたことをルナはわかっていた。それは今も変わらない。 「..........。」 黙り込んだルナを見て、男は腕を伸ばし抱きしめた。今度は驚くほど優しく。
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