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「あー、テスト早く終わんないかな」
「今日始まったばかりでしょ」
はぁ、とため息をつく文芸部部長の北川晴陽に、隣にいたクラスメイトの西園智也が呆れている。
「そりゃ、智也は目をつぶってテスト受けたって成績上位だろうけど」
「目をつぶったら問題見えないでしょ」
「あ、そっか」
淡々と正論を返す成績優秀者である智也に、自分の頭の悪さが露呈されて、なんだか恥ずかしい。
テスト期間は憂鬱だ。部活も休みになるので、なんとなく物足りないし、家に帰ったら勉強しなくちゃいけないので、かわいい妹のみくるの遊び相手もしてやれない。
「おーい、晴陽!」
上履きから靴に履き替えていると、聞き覚えのある声で呼ばれた。
身体を起こし、声のする方に顔を向けると、同じ文芸部のメンバーである東山と上松もちょうど帰るところだった。
「部活ないからつまんねぇな。テスト早く終わってほしいぜ」
「ヒガシ君、まだ始まったばかりですよ」
なんだか聞き覚えのある会話である。
「俺さ、俺、テスト終わる頃に、欲しかった新刊が届く予定だから部室で読むんだ。すっげぇ楽しみ」
「そんなこと言って、またけちゃんけちょんに文句言うんじゃないの?」
ライトノベル批評が趣味だという東山は本を買って読むたびに辛口の批評を繰り広げている。
「いや、あの作者は大丈夫だ」
「ヒガシ君、いつもそう言ってますよ」
にこにこと笑いながら聞いている上松は、東山と幼馴染で、東山をはじめとしたみんなの聞き役だ。
「あれ、部長、みんなもー」
「あ、シモじゃん」
自分たちの声が大きかったのか、たまたま前を歩いていたらしい下尾が振り返った。
「なんだ、テストなのに、文芸部揃っちまったな」
「このまま部室に行っちゃったりしてね」
「早くみんなとお話したいです」
顔を見合わせて、頷き合う。それはみんなが思っているようだ。
「俺、テスト終わったら、薄い本が届くんだ」
「あ、俺も、欲しい新刊が届くんだ」
「えっ、じゃまた辛口な批評するんだ」
「なんでだよ」
晴陽は楽しそうに話す部員たちを、後ろからぼんやりと眺めていた。
「どうかした?」
智也が心配そうに声をかける。
「早く文芸部行きたいなーって思って」
「文芸部っていうか、みんなと話したいんだよね、晴陽は」
「それな!」
本が好き、本に興味がある、という共通点だけで、三年間一緒に過ごしてきた。あまり文芸部らしいことはしていないけれど、このメンバーと話しているのはとても楽しい。
「あー、早くテスト終われ!」
「部長!?」
「終われ!!」
「ヒ、ヒガシくん!」
突然叫んだ晴陽と、それにつられて東山も叫ぶ。そんな二人を見て、下尾、上松、そして智也も笑う。
彼らは校門を出てバイバイするまで、たわいもない会話を続けたのだった。
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