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「つーか、文芸部なんて部活一覧の中にあったか?」
確か、入学式のときに配布されたプリントの中にはそんな部活はなかったはずだが。
「去年、部員が卒業して事実上廃部になってたそうです」
「ああ、それで、掲載されてなかったのか」
「それが今年の一年に入部希望者がいて、文芸部が復活しそうだと、今、社会の徳道先生に聞いてきたんですよ」
「ふーん。よかったな、じゃおまえ一人で入ればいいだろ」
「なんでですかぁ~」
今度は、目が隠れるほど長い前髪の隙間から、東山をすがるように見つめてくる。まただ、また、この顔だ、と思わずため息をつく。いつだって上松は、自分に対して無理を聞いてほしいときに、決まってこの表情を向けてくるからだ。
「なんで、俺を巻き込むんだよ。俺、高校は帰宅部でいいって言ってあっただろ」
「だって僕は、ヒガシくんと同じ部活に入るのが夢だったんです~」
「そんな夢、知るかよ」
東山は、はぁとため息をついて、坊主から少しだけ髪の生えてきた頭をさすった。
母親同士が同級生ということもあって、上松とは子供の頃から一緒にいることが多かった。引っ込み思案な上松は、どちらかといえば決断が早い自分を慕ってくれているのか、とにかく自分の行くところには必ずと言っていいほどついてきた。
そんな風に自分にべったりだった上松から離れたくなって、中学では野球部に入った。運動神経が底辺な上松はさすがにそこまでは追いかけてはこなかったが、部活のことを勝手に決めたことを、今でも時々思い出したように、メソメソと泣くので、たまったもんじゃない。
結局、中学はクラスも部活も違ったので、昔ほど一緒に過ごさなかったのだが、高校は自分の親から聞き出したのか、ちゃっかり同じ高校を受験して、なおかつどんな願掛けをかけたのか、入学式の後、同じクラスであることがわかり、昔のように、自分についてまわる生活に戻ったわけだが……。
「文芸部はどうしてダメなんですか? 僕もヒガシくんも、本が好きだし、唯一の二人の共通の趣味じゃないですか!」
「バーカ、読むジャンルが全然違うだろ。それに俺はおまえみたいに本の虫じゃねぇよ」
あらゆるジャンルの本を読むという上松は、昔から図書館に住んでいるといわれるほど、本が好きで雑学好きなこともあって、知識も多い。自分も本は好きだが、上松ほどではないと自信を持って言える。
「ヒガシくんは僕と違って厳選してるだけです。だってハズレがないですもん」
「褒めても何にも出ねぇよ」
必死な上松を遮るように、午後の授業が始まるチャイムが鳴った。
「ほら、席戻れって」
「ヒガシくん、お願いですから、少しでいいから、考え直してください!」
「はぁ? もう俺は帰宅部に決めてるって言ってんだろ」
「そんなこと言わないでくださいいぃ」
教室の扉を開ける音がして、ざわついていた生徒が自席に戻る。上松もまた、後ろ髪を引かれつつ、瞳を潤ませながら、席にしぶしぶ戻っていった。
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