★番外編②上松と東山の文芸部入部

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 だいたい文芸部で何を目指すというのか。どれだけ頑張ったって、何も結果が残せないことだってあるというのに。  東山は、中学一年生の頃の自分を思い出していた。 「1年3組東山です。少年野球チームでピッチャーやってました!」  自分の紹介に、新入部員も先輩部員からも、おお、と声が上がる。毎週続けていた少年野球でピッチャーだったのは事実だった。けれど、それは9人しかいないメンバーの中でピッチャーをやりたいのが自分だったというだけで、上手いからピッチャーをやらせてもらえてたのではないことを、すぐに思い知った。部活を続けていくうちに、自分よりも上手い選手がどんどんレギュラーを獲得していった。そこそこの実力だった自分はいつしか、取り残されていき、 練習は熱心だが、試合には出れない部員になっていった。それでも部活には毎日出た。人一倍、声も出した。レギュラーになれなくても、慕ってくれる後輩はいた。それはもちろん野球の上手い先輩としての評価ではなく、真面目に部活に参加する先輩として、だ。  結局、3年間の野球部で試合に出たことは、最後の引退試合の代打、ただ一度きりだった。その代打も三振に終わり、高校卒業と同時に野球をやめることにした。  それでも自分は野球部に入ったことを後悔はしていない。練習はキツかったけど野球は好きだったし、仲間にも恵まれた。  そして部活で学んだことがある。どれだけ頑張っても、必ず成果が出るとは限らないということだ。それなら、文芸部の目指すところはなんだ。何を頑張るというのだ。  もう頑張ることはしたくない。だから帰宅部がいいと言ったのに、何が文芸部だ。  その日の授業後、上松を避けるように一人で帰った。
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