捨てる神あれば、拾う神あり。

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退院当日。良く晴れた冬晴れの午後。 俺は家族とともに我が家へ帰ってきた。 なんだか懐かしいような、むずむずと落ち着かないような、そんな場所。 「さあ、もうお前は大丈夫だよ。今日からうちの子だからね。 ちょっと珍しいけど、可愛いことには変わりないね」 何のことを言っているのかわからなかったが、にこにこと笑いかける家族に、久しぶりの安堵感を覚えた。 さあ外で遊んでおいで、と半ば追い出されるように外へ出る。 仕方ないのでぶらぶらと歩いていると、古ぼけた駄菓子屋があった。 不思議と素通りできなかった。誘われるように中へ入ると、奥の方で一人の老婆が丸椅子に腰掛けている。 化石のように動かないので、生きているのか少し心配になるくらいだったが、老婆はふと顔を上げこちらに気づいた。 「おやおや、おまえさんかい。無事こっちへ来られたようだね」 老婆はのんびりとした足取りで俺に近づくと、そっと頭を撫でた。 「どうだい、人間はお前のことかわいがってくれるだろう。 生き物はな、たとえ同族でも自分たちと少しでも姿形が異なると、異質なものとして排除したり、攻撃する習性がある。 逆に全く別の生き物同士だと共存できたりするんだよ。不思議なもんだね。 特に人間は、他の動物を愛するという感情を持っているからね。人間捨てたもんじゃないさ」 老婆は奥へと上がり、少しして出てきて、俺の前に何かを差し出した。 深皿に入ったミルクだった。 ぺろり、ひとなめすると、とてもおいしかった。 「お前さんは時が経てばどこかまた別の世界に行き、様々な姿形に変えながら、移世を渡り歩いていく。二叉の尾を持つ猫の宿命というやつさ。なあ、化け猫よ」 はっと気づき、横のガラスケースに映り込んだ自分を見る。 そこには長い二叉の尾を持つ、まん丸の目をしたトラ猫の姿が映っていた。
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