もてなす京都の道祖神

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今も毎朝決まって5時50分になると我の前をそのたぐいの男が歩いてゆくのだ。皺ひとつなく折り目正しき、この時代の肉体労働を免れたものの仕事着を身にまとい、陽も上がりきっておらぬうちからこれより行う業務とその対応策をしっかりと想定し脇目もふらず前を向いて歩幅広く早く軽く前進してゆく。  他の恥辱や黙殺は耐え忍べてもこ奴だけは我慢がならんのだ。京都の土が、水が、空気が、垂れこめる水蒸気がそうさせるのだろうか。  我は我自信でさえ自覚していない通力を使おうとしている。毎朝5時50分、彼の者が我の前を横切る時、我は睨むのだ。
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