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こうなれば所詮人などというものは他愛なく健気なものである。我はその存在を許すことにした。石像はもちろん動かぬが我は空を見上げた。空は薄い雲が一面覆って濁っており地上より風が強いのか、大きくうねっている。
ふとこれは我の通力などではなくこの地と水と人がそうさせたのではないかと考えた。我と同じ思案のものがこの市中には満ち満ちており、彼の男のようなものを手ぐすねひいて待っているのだと。我はやはり取るに足らぬものなのだと。だがそんな考えは小面憎いあのものが打ちのめされたと言う事実から生じる快味にすぐにかき消された。
そしてその時、横で妻が、幾年も静止していた妻が笑ったのだ。「ホホホホ」と声をあげて。
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