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今までの生贄らと違い、彼は武器と道しるべを手にしている。これさえあれば異形も迷宮も恐れるに足らず。こんな異郷の地下で死んでなるものか。牛を倒して生きて故郷に帰るのだ。強い信念のもとに彼は勇気を湧き立たせ、一歩一歩と迷宮の深部に踏み込んでいった。
延々と続く迷路を歩き続けていると、時折、咆哮のようなものが聞こえてきた。地下に吹き込む風の音か、飢えた異形の雄たけびか、それは石の壁に反響して、遠くのようにも近くのようにも聞こえる。気負えどもなかなか異形とは遭遇せず、彼の集中力は次第に疲弊し始めていた。しかし。
大きな段差に差し掛かった時、突如目の前に星が散った。遅れて、足がくずおれる。額に強い衝撃を感じたとわかった時にはすでに、背中が冷たく湿った石の床を感じていた。
なすすべもなく後方に転倒した彼の視界、その下方から、大きな顔がにょっきりと生えた。
太い角と長い顔――それはまさしく、牛の顔だった。
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