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目覚めた時、一瞬状況を失念するほどの眩暈と頭痛に苛まれながら、どうにかこうにか、起き上がった彼の目の前にあるのは、やっぱり牛の顔だった。
立派な角、黒褐色の毛に覆われた長い鼻づら、意外と長いまつ毛に縁どられた瞳は、アイラインが横に伸びてしっとりと黒く濡れている。
「おかげんはどうかな?」
牛は人語でそう言った。牛なのは顔だけだった。よく見れば首から下は普通に中肉中背の成人男子の体つきに、小ざっぱりと貫頭衣を纏っている。
「あそこ、段差に気を取られて上の出っ張りを見落としちゃうんだよねえ」
ボクもよくぶつけるんだー、と続けながら、牛は彼に液体の入ったカップを差し出した。
反射的に受け取ろうとして、咄嗟に両手を見る。剣は…? ない! 糸巻きも…ない!
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