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「このハーブティー、いいでしょ? 何期生だったかなあ。だいぶ初期の頃に来てくれた子が、迷宮内に生えてるシダが本国の薬草に似てるって教えてくれて。それから栽培を始めたの」
翌朝も、ミノはにこやかにカップの液体を差し出してきた。ただし、今回はホットで。
「最初は青臭さが勝っていたんだけどね。その次に送り込まれてきた子が、庭師だったから、一緒に色々ヒンシュカイリョウ? したんだぁ。そのあと薬師の息子さんが来たから、乾燥と煎じ方のコツを教えてもらって……そのあとに来た女の子からお茶の淹れ方も習ったんだ」
どうやらこの液体はメイドイン迷宮、ミノご自慢のお茶らしいが、どうして味はなかなか悪くない。テセウスは自然な和やかさでそれを口に運んだ。
生贄を食う牛の化け物を倒さんと、迷宮に入った。だからミノと遭遇した時はどちらかが死なねば決着はつかぬ、と気負ったものだけれど。
話を聞けば聞くほどに、ミノは牛の頭であるというだけで、ただの若者だった。
「迷宮は怖くはないですね。物心ついたときから住んでますから。目隠しされたって歩いて見せますよ(笑)」
――閉じ込められて悔しくはないのか、って?
「うーん。これが当たり前の環境で育ってますからね。悔しくも、怖くもないけれど、不便と言えばそうかな。夜に本読もうとしても灯が無いし」
――読書なんてするの、って?
「しますよ、こう見えて(笑)送り込まれてくる人たちがたまに、持ってたのをくれるんですよ。ボクの生活がいくぶんか文明的になったのは、間違いなく彼らのおかげです」
そう語るミノさんの瞳は仲間への信頼感で輝いていた。
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