迷宮の中で牛に遭う

5/9
前へ
/9ページ
次へ
※ 「このハーブティー、いいでしょ? 何期生だったかなあ。だいぶ初期の頃に来てくれた子が、迷宮内に生えてるシダが本国の薬草に似てるって教えてくれて。それから栽培を始めたの」  翌朝も、ミノはにこやかにカップの液体を差し出してきた。ただし、今回はホットで。 「最初は青臭さが勝っていたんだけどね。その次に送り込まれてきた子が、庭師だったから、一緒に色々ヒンシュカイリョウ? したんだぁ。そのあと薬師の息子さんが来たから、乾燥と煎じ方のコツを教えてもらって……そのあとに来た女の子からお茶の淹れ方も習ったんだ」 どうやらこの液体はメイドイン迷宮、ミノご自慢のお茶らしいが、どうして味はなかなか悪くない。テセウスは自然な和やかさでそれを口に運んだ。  生贄を食う牛の化け物を倒さんと、迷宮に入った。だからミノと遭遇した時はどちらかが死なねば決着はつかぬ、と気負ったものだけれど。  話を聞けば聞くほどに、ミノは牛の頭であるというだけで、ただの若者だった。 「迷宮は怖くはないですね。物心ついたときから住んでますから。目隠しされたって歩いて見せますよ(笑)」 ――閉じ込められて悔しくはないのか、って? 「うーん。これが当たり前の環境で育ってますからね。悔しくも、怖くもないけれど、不便と言えばそうかな。夜に本読もうとしても灯が無いし」 ――読書なんてするの、って? 「しますよ、こう見えて(笑)送り込まれてくる人たちがたまに、持ってたのをくれるんですよ。ボクの生活がいくぶんか文明的になったのは、間違いなく彼らのおかげです」  そう語るミノさんの瞳は仲間への信頼感で輝いていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加