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その巨大な魔獣は男を見下ろした。男もまた魔獣を見上げていた。
彼らは少し表情を崩すと、先に男が口を開いた。
「お主も、なかなかの悪じゃのう…」
「いえいえ、腹黒魔導士殿には叶いませぬ」
2人は高笑いをした。
「して、約束の黄金クッキーはどこだ?」
「今、ご用意いたします…尻から」
「声が大きいぞ馬鹿者」
その直後に彼らは再び笑った。楽しくて仕方ないようだ。
その空気を打ち破るように、毅然とした声が響いた。
「そこまでです!」
魔獣と男は目をむいて辺りを見渡した。
やがて、男は叫ぶ。
「何奴…!?」
「私の顔、見忘れましたか?」
男はハッとした様子で乗り込んできた女性を眺めた。どうやら見覚えがあるようだ。
実は乗り込んできたのは、聖女の二つ名を持つ女性。予期せぬ彼女の乱入に男はしどろもどろになってしまった。
「えーと、その…つま、な、なんだ?」
魔獣はその様子を察して、男の前に冊子を出した。
「悪徳魔導士用セリフ、通称欲張りセットでございます。どれでも好きな物を…」
「えーと…なら! 聖女様の顔など忘れたわ。出会え出会え~っ!」
そう男が叫ぶと、魔獣は小さな声で言った。
「私しかおりませんぞ、魔導士殿」
聖女は剣を取ると魔獣を見て言った。
「ところで貴方。流派は何ですか?」
「アモン流拳術でございます」
「では…勝負!」
間もなく、魔獣と男の断末魔が響いた。これで一件落着。めでたしめでたし…
おや、聖女が悪徳魔導士用セリフ集を手に取った。
「私としては、冥途の土産に教えてやろう…を聞きたかったのですが、もう手遅れですね」
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