密会、そして…

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 その巨大な魔獣は男を見下ろした。男もまた魔獣を見上げていた。  彼らは少し表情を崩すと、先に男が口を開いた。 「お主も、なかなかの悪じゃのう…」 「いえいえ、腹黒魔導士殿には叶いませぬ」  2人は高笑いをした。 「して、約束の黄金クッキーはどこだ?」 「今、ご用意いたします…尻から」 「声が大きいぞ馬鹿者」  その直後に彼らは再び笑った。楽しくて仕方ないようだ。  その空気を打ち破るように、毅然とした声が響いた。 「そこまでです!」  魔獣と男は目をむいて辺りを見渡した。  やがて、男は叫ぶ。 「何奴…!?」 「私の顔、見忘れましたか?」  男はハッとした様子で乗り込んできた女性を眺めた。どうやら見覚えがあるようだ。  実は乗り込んできたのは、聖女の二つ名を持つ女性。予期せぬ彼女の乱入に男はしどろもどろになってしまった。 「えーと、その…つま、な、なんだ?」  魔獣はその様子を察して、男の前に冊子を出した。 「悪徳魔導士用セリフ、通称欲張りセットでございます。どれでも好きな物を…」 「えーと…なら! 聖女様の顔など忘れたわ。出会え出会え~っ!」  そう男が叫ぶと、魔獣は小さな声で言った。 「私しかおりませんぞ、魔導士殿」  聖女は剣を取ると魔獣を見て言った。 「ところで貴方。流派は何ですか?」 「アモン流拳術でございます」 「では…勝負!」  間もなく、魔獣と男の断末魔が響いた。これで一件落着。めでたしめでたし…  おや、聖女が悪徳魔導士用セリフ集を手に取った。 「私としては、冥途の土産に教えてやろう…を聞きたかったのですが、もう手遅れですね」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加