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いつの間にか日が傾いてきた。空はすっかり茜色に染まり、夕映えで川面はきらきらと輝いている。頬を橙色に染めたタクミとナオヤが、浩一を横からじっと見つめていた。
浩一はこの時間帯が好きだった。昼と夜の丁度中間。太陽と月を同時に見ることができる、神様がくれた奇跡のような時間帯。本来なら川辺に座り、ゆっくりと日が沈むのを見ていたいものだった。
しかし現在、浩一は、足が震えないように全身に力を入れるのに必死で、そんな景観を楽しむ心のゆとりを持ち合わせてはいない。
ルールはいたってシンプルだ。そんなに難しいことではない。一つ一つ、平坦な石に飛び移ればいいだけなのだから。
目に見える範囲は、浩一の足でも飛び移れる距離だということがわかる。しかし向こう側はどうだろう? もしかしたら、浩一の足ではとてもじゃないけど届かないかもしれない。ここで遊んだことがない浩一には、いささか不利だった。
「おい、早くやれよ!」
横から野次が飛ぶ。タクミの口調からは苛立ちが感じられた。その言葉は真っ直ぐ浩一に届き、胸の中心をドキリと震わせる。
ムキになって、こんな勝負に乗るんじゃなかった。後悔してももう遅い。
五百円がプラスされればバレッタともう一つ何か買えるかもしれない、と考えたのが愚かだったのだ。
もし、自分が負けたら五百円を失うことになる。そうなったら、あのバレッタはきっと買うことができない。
浩一は先程とは打って変わってキッと前を見据えた。心は凪のように落ち着いている。
ここまで来たらもう、やるしかないのだ。自分の名誉と母へのプレゼントのため、この勝負、勝つしかない。
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