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「じゃあ、今から死のうね?」
初恋っていうのは思い出として美化されて、とても素敵なものとして残る筈。
……だと、今、この瞬間まで思っていた。
わたしにこんな事を言って、以前と変わらない、儚げな笑顔で迫るのは、初恋の男性……。
ケン君でした。
「ち、ちょっ……」
焦って声も満足に出ない。
当然だよね。
だって、生まれて初めて初恋の人から、ずっと憧れていた壁ドンまでされたんだよ?
これ、普通ならときめく場面。
ね。
普通なら。
ときめく場面だから。
ただ違うのは、ケン君が見知らぬ“誰か”の返り血を浴びた状態で、もう片方の手には血に塗れたナイフを持ってるって事くらいかな。
この時点でもう既におかしいし、わたし、絶望的なんですけど。
いやいや。
おかしいでしょ!?
普通! 初恋の人と再会するって、少女漫画的パターンは、もうそこから恋の炎が燃え盛って加速していくところ!
間違っても命、狙われたりしないからね!?
一体どうなってんのよ、わたしの人生は!?
「ふふ……。震えてるね。怖い? 大丈夫。怖くないよ。痛みなんてない。一瞬で、……終わらせてあげる」
ケン君が昔と変わらない仕草で、わたしのさらさらストレートヘアを、さらりとナイフで揺らしてくる。
……シチュエーションがシチュエーションなら、目茶苦茶“きゅん”ってなる場面だけど、ナイフ、血塗れだからね。
“きゅん”どころか心臓停止させられるわ。
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