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「何歳だったかな…たぶん五歳か六歳くらいだったと思うけど」
誰にも話したことなんてなかった。
あたしが昔テレビの向こう側の人間だったってことを知ってるヒトはホントに少なくて。
だけど、今まではそれでもよかった。
雷に出会うまでは…
「火事のシーンで逃げるハズだったんだけど、予想外に火の回りが早くて逃げ遅れたの」
一発本番の失敗できない場面。
今思えば、幼いながらにそのプレッシャーもあったのかもしれない。
「迫ってくる炎が怖くて動けなかった。もちろん失敗して、後日撮り直しするってなった時、恐怖で逃げ出した」
あれ以来、大きい炎を見るのはダメになって。
そして、消えないモノが体に残った。
「誰もあたしを責めてこないの。幼いながらにコトの重大さはわかってた、わかってたのに…」
今でも、あの時のことは鮮明によみがえる。
恐怖と失望と、いろんな感情が渦巻いていた現場。
「あたし自身、左腕に火傷を負って、なんとか最後まで撮影して、それが最後の仕事」
もう二度とあの場には立てないと思う。
たぶん、テレビ局に入ることもできない。
「…だから、夏でも長袖着てたんだ」
「見えやすい場所だし、どうしたのって聞かれるくらいなら暑いのをガマンする方がまだマシ」
「見せて」
言うとは思ったけど。
でも、そんなに簡単に見せられるホド、軽いケガじゃない。
「…ちょっと、そこまでの整理はついてない。話すことはできるけど、誰かに見せて気持ちいいモノではないから」
「そっか…」
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