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少し影を落とす雷だけど、全然動いてくれない。
押し倒されている状況のままで、なぜあたしは昔話をしたんだろう。
うん、話さないと動いてくれそうになかったからなんだけど、終わっても変わらない。
「雷…?」
小さく名前を呼べば、左手であたしの頬に触れてくる。
鼓動が跳ねた気がした。
こんな近くにいて、聞こえないか心配してしまう。
「その頃のあげはさんを抱きしめてあげたかった。責めることはもちろんしないけど、大丈夫だよって甘えさせたかったよ」
「ヤ…あたしは責めてほしかった」
罪が軽くなるとは思わないけど、厳しく言ってほしかったんだと思う。
そこはちょっと、朧気だけど。
「あげはさん、めんどくさい」
「…え?うん、そうだね?」
「その時、そこにいた大人達から何か陰口でも聞いた?」
なんか、急に盛大なため息をついて、触れていた頬をおもいっきりつねられたんですけど。
「えと、特に聞いてない、かな?」
「陰でコソコソ言ってたかもしれない、だけど聞いてなければ言われてないと一緒」
「そういう問題?」
「それでいいんだよ、めんどくさがりのクセに深く考えすぎ」
うん、まぁ、そうなのかもだけど。
当人じゃない、第三者だからバッサリと言えるのかもしれない。
「え、ちょっ…」
起き上がらされたと思ったら、力強く抱きしめられて少し苦しい。
「その頃の分まで甘やかしてあげる。年下だから頼りないかもしれないけど、あげはさんの思うように甘えて」
「ヤ、十分に甘やかされてる」
「足りない」
何が?
聞こうと思ったけど、何も言わずに雷の背中に腕を回した。
すると、優しく背中を撫でてくる雷。
「……ありがと」
小さくお礼を言えば、雷が笑ったように思えた。
やっと、少しだけ近づけた、かな?
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