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『ソノ姿醜貌也 諸肌唐松ノ如ク割レ眼赤シ 累々タル瘤ノ背丸メタリ 肥桶カ血臭ノ如キ呻吟シ 畜生襲イテハ屠リ齧リタル 正ニ化生也』
僕が読み上げると、二人は首をひねった。
「何だ、それ。中国語か」
「オレ聞いたことあるよ。お経でしょう、お経。知ってる」
タッちゃんもオカモンも、見当違いの返答だ。僕は『日記帳』と題された古い冊子を手に、自分なりの現代語訳を試みた。
「違う、違う。立派な日本語。つまり……すごく気持ち悪い姿をしていて、松の木みたいなガビガビな肌で、目が真っ赤で、丸まった背中はボコボコのコブだらけ。ウンコみたいな、血みたいな匂いのする唸り声をあげて、動物を襲っては殺して食べた。マジ、バケモノ……って感じかな」
二人は感嘆の声をあげる。僕は得意げに続きを読んだ。
「官憲が力も及ばず、夜毎、化生はその数増して――」
タッちゃんが僕の手から日記帳を取りあげた。
「おい、ヒロキ、ちょっと待て。日本語で言え」
「だから、ちゃんとした日本語だって。明治時代にひいひいじいちゃんが書いたんだから」
僕は日記帳を取り返して、また読み始めた。ただし今度は僕たち中学生でもわかるように、やんわりと噛み砕いて。
「警察が来てもダメで、バケモノの数はどんどん増えて、隣村から来たメッチャ頭のいい医者のアイディアで、ようやくバケモノを退治することができたんだって。一週間のあいだに、すげーいっぱい死人が出て大騒ぎだったって話だよ」
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