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「誰だ、サモンジって」
日付は昭和十六年五月二日とある。どうにも気になって、スマホで佐門次克彦という人物を検索してみた。一八九九年生まれの日本陸軍医。北関東軍衛生防疫部の創設にかかわった人物らしい。
「何だ、衛生防疫部って」
検索にヒットした見出しの数々に、僕は震えた。北関東軍衛生防疫部は、第二次世界大戦当時、食品の衛生管理や感染症予防を管轄していた部署。世界各地の細菌を採取して、研究を行っていたようだ。
生々しい戦時中の記事とともに、いくつもの画像が表示された。それらは、様々な細菌による感染者たちの健康被害を記録した写真だった。
ガリガリに痩せこけた裸の男。地べたを這いつくばっている群衆。鱗状に硬化して、ひび割れた頬をした者。血の涙を流している者。変形して曲がった背中を水疱が覆っている者。たくさんの白黒写真には、目を覆いたくなる人々の姿が映し出されていた。
僕の脳裏に、ひいひいじいちゃんの日記が思い出される。
『諸肌唐松ノ如ク割レ眼赤シ 累々タル瘤ノ背丸メタリ』
「似すぎてる。もしかして……」
明治三十四年一月末、この町は謎の感染症に侵されたのではないか。感染拡大を抑えるためにとられた手段は、焼却処分。それが辛丑の大火だったのだとしたら。
金庫の中に閉じ込めたというバケモノの正体とは……。
「あの小さな瓶の中には、何が入っていたんだろう」
つぶやいた途端、咳が止まらなくなった。熱があがり、体の節々が強烈に痛む。
これって、ただの夏風邪だよね?
〈了〉
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