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シャッター音と君の聲
写真が好きだ。
何故なら写真は嘘をつかない。今のご時世、加工しようとすればいくらでも出来ることくらいは知っているけれど。それでも私が今シャッターを切って切り取った景色には、人の手が加えられていないありのままの世界が映っている。
嘘はない。
そして、余計な“欺瞞”も“偏見”もない。
私が学校で機械工学を学び、デジタルカメラを自作するに至ったのも写真という媒体に惹かれたことがきっかけだった。何も絵や漫画のようなものを否定しているわけではない。ただ、誰かの手を経れば経るほど、そこから真実が薄れていってしまう気がしてならないのだ。端的に言えば、どうしても現実に近いものに魅了されてしまう性だという、ただそれだけのことである。
例えそうやって映し出される現実が、美しいばかりでなかったとしても、だ。
むしろ汚いものが溢れる現実であるからこそ、そこにありのままに写り込む自然の美に惹かれるのかもしれない。――私が、死ぬことを意識するようになったから余計そうなのかもしれないけれど。
――どうせ死ぬなら、世界で一番綺麗な景色を見て死にたいものね。
ハイスクールに在籍する年齢ながら、私は何年も前から一人旅をするのを趣味としていた。写真を趣味にしていることを知っている両親は特に気に止めてないようだが、要は死に場所を探すための旅である。
自分をこの世界に産み出した二人に対して、恨み辛みはない。むしろ彼らは精一杯愛してくれていると知っているし、自分が死んだらきっと悲しむこともわかっている。そんな彼らに対して申し訳ないという気持ちも、当然ある。それでもだ。
私は、一刻も早く死ななければいけない人間だ――その気持ちはニュースを見、世界を見るたび強くなっていくのだ。自分は“あの人たち”と違って、差別される側の人間ではない。それでも。
出来損ないであることに、変わりはないのだ。むしろ自分の方が“あの人たち”よりも、余程。
――ああ、凄い。シルバーマリーのこんな綺麗な花畑、初めて見るわ。
夏休みを使って、私は地元から遠く離れた北国にまで旅行に来ていた。カラカラと風車が回るレトロな公園では、シルバーマリーという真っ白な花が丁度見頃を迎えている。この花は夏には白、冬には黄色の花を咲かせるという特殊な生態を持っていた。一年に二度以上花を咲かせるというだけでも珍しいのに、二度で違う色になる仕組みは未だに解明されていないという。
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