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旅立ち
雨上がりの空に虹がかかる二月一四日の朝。それは突然起こった。回復ポーション屋を両親から引継いで店主としてお店を守ってきた森泉レーナのネックレスが光ったのだ。
レーナには僕っ娘な妹が居る。名を森泉ネルパという。
レーナは店のドアを閉め、OPENと掛かれたボードをひっくり返してCLOSEにすると、もう一人のネックレス所持者である妹の部屋のドアを勢いよく叩いた。
「ねぇ、ネルパ!!あたしのネックレス、突然光ったんだけど、ネルパのはどう?!」
ドアがその隙間から淡い光が流れて静かに開く。
「見ての通りよ、レーナ姉さん」
眠たげな瞼をこすりながら、銀髪の少女が起きてドアを開け、顔を出した。
「やっぱりあんたのも光ってる! これはやっぱり、私たちにネックレスをくれたおばあちゃんが言っていた伝説の通りに、塔へ行かなきゃ! ーーネルパ、出かける用意するわよ」
幸いなことに、天気は快晴で、体感温度も少し暖かい。レーナたちの店の周囲には他にも居酒屋だったり、香水の専門店だったり、本屋さんがあったりするため、いつも不思議な香りが漂っている。
まもなく、店の外にレーナとネルパが荷物を背負って登場。
レーナの持つ地図とコンパスを頼りに、姉妹は出発。店番は、いつも世話になっている、向かいの本屋さんのアルバイトのケンに任せている。
レーナとネルパはケンを振り返り、手で「行ってきます」の合図とケンからの「いってらっしゃい」の合図を交わした。
「じゃあ、行こっか」
ネルパがレーナにコンパスを渡す。
レーナは広げた地図とコンパスのさす方角を頼りに、東へと歩く。間もなく姉妹は林の中へ入る。入り口には回復ポーションの問屋が、更にその先に進めばジャズの演奏家が優雅なメロディーを奏でている。更に先へ進むと、道が右と左に分岐した地点にたどり着く。
レーナがコンパスと地図を見ながら言う。
「ここから先は、右へ行きましょう」
姉妹は右折して更にその先へと歩く。すると、良く熟した木の実が美味しそうな木々がアーチ状になって姉妹を出迎える。
「図鑑に載っていた木の実だわ」
「本当ね。でも、確かこの木の実は食べられないタイプのじゃなかったかしら?」
ネルパはリュックから図鑑を取り出して該当のページを参照する。
「うん、どうやら食べられないやつらしい。レーナ姉さんの言うとおりだ」
食べられない木の実のアーチの先には、狼のような姿をした雌と雄の幻獣が、その場に落ちていた木の実を転がして楽しげに遊んでいた。レーナとネルパは狼たちの邪魔にならないように避けて先へと急ぐ。すると、小高い山の前まで着く。見上げると、綺麗な一本道である。頂上までは40メートルはありそうだ。
「いよいよだね、レーナ姉さん」
「さぁ、行くわよ」
レーナが先頭を行き、ネルパは姉の後ろについて、ゆっくりと山道を登る。とげとげした木々も特になく、ただただ白樺に両サイドを囲われながらの道で、傾斜も緩やか。歩幅も問題なく、ちょうど人ふたりが間隔に余裕をもってすれちがうことが出来るほどの間隔がある。
見上げれば空は少しずつ色が変わって、曇りから青空が広がりを見せてきていた。
登山口と山頂との中間地点まで登ると、ようやくお店を一軒見つけた。お店からはパンケーキとメイプルシロップの甘い香りが漂ってくる。
「ちょっとここで休ませてもらいましょうか」
「そうだね、姉さん」
姉妹はパンケーキ屋さんで休憩がてら食事をとることにした。
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