本屋の愉快な仲間

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本屋の愉快な仲間

 駅前にある8階建てのビルーー文具や雑貨なども多数扱う大きな本屋さん『大熊書店』が私の新しい職場だ。 「山田さん〜!わからないことがあったら何でもアタシに聞いてね!」  ツインテールが可愛らしい古賀さんは、20歳の女の子だ。 「3階の18禁コーナーの担当はオレだ!ヨロシク!」 「もう!そんな担当はないからね!嘘を言わない!」  派手な金髪頭のチャラそうな男は増岡さん、19歳。  日中は本屋でバイトをしているが、本業はバンドマンだそうだ。  同じフロアを担当してるバイトの2人とも仲良くなれた。  本屋さんの仕事って結構力仕事なんだと思いながらーー、でも職場の人間関係も良くて、仕事も優しく教えてもらえるし、楽しくやっていけそうだ。  ーー18時過ぎ。 「………!?」  店内を歩いていると、背後から視線を感じて振り替えてみた。  階段の辺りで黒いスーツ姿の男が立っていたーー身に覚えのある猫背、男は私が振り返ると、慌てて階段を降りて行った。 「………!」  私は顔を青くして、冷や汗をかいた。  脚がガクガク震える。  一瞬しか姿は見えなかったが、前の職場の平谷さんに似ていたーー。 「まさか…」  彼の連絡先はブロックしたし、本屋でバイトを始めたことなんて姉や律也くらいにしか伝えていない。  派遣の仕事を辞めてからは接点もないし、1〜2ヶ月間は何もなかったから、てっきり私に付き纏う行為はやめたのかと…。 「どうしたの?山田さん、顔が真っ青だよ?」  レジに戻ると、古賀さんが心配してくれた。  私はハッとして笑顔を見せた。 「何でもないよ」 「美森」  名前を呼ばれて、振り向くとレジのカウンター越しに律也が立っていた。  18時が定時だと話していたから、きっと仕事帰りなんだろう。 「律也?何?買い物…?」 「うん」  手にはメンズ雑誌とコミックスを数冊持っていた。  買った漫画は普通の少年漫画のようだ。 「いらっしゃいませー!」  古賀さんは元気にレジ対応に入る。  心なしか律也の顔をうっとり見つめ、頬を染めている……。 「……美森、1階にあるカフェでコーヒー飲んでるから、仕事が終わったら電話しろ」 「え?終わるのは30分くらい先だけど……」 「帰りにスーパー寄るぞ。お前、荷物持ちしろよ。ゴリラ女のお仕事だ」 「え?うん…。って、ゴリラじゃないわ!」  律也は去って行った。  気のせいだとは思っているがーー、平谷さんのような人影を店内で見てから動悸が治まらない。  一人でマンションへ帰るのが怖かったところだ。  律也が一緒に帰ってくれるなら心強いし、安心かもしれない。 「はぁ〜。すっごいイケメンだね!山田さんの彼氏?王子様みたい〜!2・5次元!?プリ☆スタの桃司くんに激似!!声もそっくり!カッコいい〜!キャー!」  古賀さんは目にハートを浮かべて、舞い上がっていた。  プリ☆スタとは、今流行っている女性向けの恋愛スマホゲーム。  桃司というのは王子様キャラの優男風イケメンで、古賀さんの推しキャラだと以前熱弁していた。  古賀さんのカバンには、そのキャラの缶バッチやマスコットがたくさんぶら下がっている。 「彼氏じゃないよ、ただの幼馴染だから。訳あって、一緒に暮らしてるの」 「エエ〜?あんなイケメンと1つ屋根の下?理性と心臓……持つの?」 「ハハハ……」  外では徹底してキラキライケメンを装っているが、あれは擬態だ。  家の中での干物男姿を見せたら、古賀さんもショックを受けそうだ。
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