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実家からの仕送り
5月に突入し、ルームシェアを開始して約1ヶ月が経過していた。
相変わらず私はあの魔法少女のコスチュームを着用している。
平日の昼下がり、今日はバイトもお休みなので共有スペースの掃除をしていたのだが、玄関のインターホンが鳴った。
郵便局の配達員だった。
「はいはーい。今出ます」
玄関の扉の前まで小走りして、ドアノブに手を掛けたところでハッとした。
コスプレ姿で出てもいいんだろうか?……でも、忙しい配達員さんを待たせるわけにも行かず、恐る恐る扉を開ける。
「山田 美森様へお荷物でーーす!?」
突然目の前に出てきた魔法少女に、配達員は口をぽかんと開けて目を見張って驚いていた。
私は顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「ははは〜、ハンコですねー!はい、お疲れ様です」
「はは、どうも…」
気まずかったから、荷物を受け取るとすぐに扉を閉めた。
私宛ての荷物は、地元の、律也のお母さんからだった。
ダイニングのテーブルの上に箱を置いて、開けてみると、中には美味しそうな桃がたくさん入っていた。
「わぁ〜!美味しそう〜。おばさんにお礼言わなきゃ」
すぐにスマホを取り出し、律也のお母さんに電話をした。
3コールも鳴らないうちにおばさんは電話に出てくれた。
『まあ〜、美森ちゃん、お久しぶりね!桃、喜んでくれたようで嬉しいわ』
「こんなにいっぱい嬉しいです!ありがとうございます!」
『うふふ、律也と食べてね。それより、あなた達、地元へはいつ帰ってくるのかしら?てっきり連休に帰ってくると思っていたら、なんの音沙汰もないし〜』
「え?何か用事でもありましたか?私、連休はずっとバイトが入っていました…」
『いやね〜、いくら幼馴染で、お互いの家族と仲良くたって、一応ケジメとしてね?両家の顔合わせはしっかりしなきゃね。ほら〜結納の打ち合わせとか、いろいろあるでしょ?ねえ、今度みんなで食事会しましょうよ』
電話越しでおばさんがはしゃいでいる。
私は絶句していた。開いた口が塞がらない。
律也の母は、私が小さい頃から私の事を息子の嫁扱いしてくるのだ。
冗談だと思っていたから、ずっとスルーしていたが本気なんだろうか。
思えば、うちの両親も「どうせ律也と結婚するんだから、就活なんて不要だ」「地元で律也の実家に入って、花嫁修行でも始めろ」と言っていたっけ。
うまく丸め込まれて、律也の実家の家業でバイトもさせられていたし…。
「っていうか…おばさん、どうして私が律也の部屋にいる事知ってるの?早希姉さんから聞いた?」
『律也から直接聞いたわよ。普段実家にも全然連絡してこないのに、珍しく私や美森ちゃんのお母さんに電話してきたのよ〜』
「エッ?あの……、私、律也とは付き合ってないですから!ちょっと間借りしているだけですので、誤解です。誤解」
『うふふ〜私達に知られると気恥ずかしいのよね〜美森ちゃん。律也も、美森ちゃんが照れて否定するかもって言ってたから〜』
「本当に違うんです!…あの〜」
『ああ、ごめんね。これから出掛けるのよ。じゃあ、またね〜』
電話は一方的に切られてしまった。
私と律也が交際して同棲していると勘違いしているから、普段は干渉がちな両親も何も言って来ないのかも…。
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