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デパートの広い催事スペースでは名城展が開催されていた。
「結構、若い女性も居るんだね」
大島さんは意外そうな表情を浮かべながら、会場内を見渡している。
「最近は城ガールって言葉もあるくらいだしね〜、私もそうだし」
「え?」
目を点にする大島さん。
(あ、そうか…大島さんって私の事を男だって誤解していたんだ)
律也が何かを吹き込んだのだろう。
よく考えてみたら、律也はともかく大島さんは男性だし、女の私とルームシェアするなんて都合が悪いのかもしれない。
男女のルームシェアなんて外聞も悪いしーー、そんな事をあれこれ考えた結果、私も黙っていることにした。
「あ、大島さん。見て見て、館山城」
「ああ、八犬伝の…」
「大島さんも知ってるの?」
「うん。中学生の頃に南総里見八犬伝の大ファンでね、博物館にも何度か行ったことがあるよ」
「そうなんだ!私は漫画だけど、律也から読ませてもらって昔ハマってたわ。良いなあ〜」
大島さんもなかなかマニアックなオタクらしく、私と同等か、いやそれ以上に詳しいし、情熱があるようで、もう何時間でも話し続けられそうだ。
律也もアニメや漫画の影響である程度、歴史の知識はあるけれどニワカだし、こんなに思い切りディープな話ができるので、すごく楽しい時間を過ごすことができた。
「はい、山田さん。今日は楽しかったよ。付き合ってくれたお礼に受け取って欲しいな」
デパートを出て緑道に入ると、大島さんは展示会で購入したストラップを私に差し出した。
「わぁ〜!亀山城の鯱瓦のストラップ!私がもらってもいいんですか?」
「うん、俺も同じの買ったから、今日の記念にどうぞ」
「わ〜、わぁ〜、すごく嬉しい!ありがとう〜!カフェでもご馳走してくれたのに、お土産までなんて…なんか、申し訳ないです」
「いいんだ。俺も久しぶりに楽しい休日を過ごせて良かったよ。ーーそれに、今日は山田さんの誕生日なんでしょ?だから、心ばかりのプレゼント」
「……え?私の誕生日、知ってたんですね」
「7月20日、今日でしょ?ほら、先週、山田さんの実家から誕生日だからってお肉が送られてきたじゃない」
「ああ…あれね」
私の実家から、地元の有名和牛のサーロインステーキが送られてきたやつ。
私の誕生日プレゼントなんて名ばかりで、居候させてくれてる律也へのお中元だったけれど。
あの日の晩ご飯はステーキで、その食卓で私の誕生日について話題になったんだった。
『うちの親って誕生日はいつも焼肉かすき焼きで、ケーキなんてものはクリスマスでも出てこないの。お肉よりケーキが良かったなあ〜!ホテルエトワールのトロピカルロールケーキ食べたーい』
なんて叫ぶように愚痴っていたっけ…。
「ふふ。今日は私も、楽しい誕生日でした。本当にありがとう、大島さん」
もらった鯱瓦のストラップをうっとりしながら見つめ、ニコニコ笑った。
すると、私の背後を勢いよく自転車が通り過ぎた。
スマホを操作しながら自転車を走らせていた少年と接触するところだったが、咄嗟に大島さんが腕を引っ張ってくれたから無事だった。
「きゃ……」
「危ないなあ……」
急に腕を引かれたから、驚いた私はよろめいて大島さんの胸に雪崩れ込む。
「あ…ありがとう」
「大丈夫?」
「うん」
私は顔を真っ赤にさせて、大島さんの胸からすぐに顔をはがした。
大島さんも少し照れたようにはにかんでいる。
「アッーー!」
草陰から急に悲鳴が上がった。
「ちょ…!声、大きい」
私や大島さんの声でもない、誰かが草陰に身を隠してこちらを見ていたようだ。
「誰かいるの?」
私が声を掛けると、観念したように少年少女が草陰から姿を現した。
すると大島さんが目を張って、漏らすように声を出した。
「え?泰輝?、舞衣?ーーなんでーー?」
「え……?大島さんの知り合い?」
「俺の……弟と妹だ。どうして……?」
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