魔法少女爆誕

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魔法少女爆誕

 駅やコンビニも近くて、南玄関の比較的真新しい内装の3LDKーー。  玄関入ってすぐ右の部屋を貸してもらえることになった。  私の部屋の広さは大体6帖ほどで、床はフローリング。以前住んでいた人が残して行ったベッド本体とタンスと小さなテーブル、全身鏡があった。  壁紙はパステルブルー、カーテンは白とピンクの小花柄だし、前の住人って女の子?もしかして律也の元彼女とか? 「扉、鍵もかけられるし、壁は防音だから」 「うん…。ねえ、律也、さっき言ってた条件って本気で言ってるの?」 「ああ、嫌なら出てけばいいだけだろ。今の季節じゃ、ホームレスになったところで凍死はしないだろ」 「それは嫌!で、でも、この歳で、こんな奇抜な衣装は……意味がわからない!っていうか、なんでこんなもの持ってるのよ?」  日曜日の朝からやっている幼女御用達魔法少女アニメのコスチュームだった。  ピンクがどぎついし、フリルやリボンがとにかくフリフリしており超ミニスカート。  肩、胸元や太ももはけっこう露出高め、まだ春先で肌寒いし、風邪引きそうーー。  なんでこんなコスチュームを所持しているんだろう?  律也の趣味?まさか自分が着る用?いや、サイズ的に無理か……。 「そのコスチュームも前の住人が残して行ったもんだ。サイズは合うだろう」 「あのね?」 「さっさとそれに着替えてリビングに来い。誓約書を書いてもらうから」 「ちょっと!律也?」  律也は気怠そうに言い付けると部屋を出て行った。  そういえば幼稚園の頃まではまだ仲も良くて、共働きで忙しい律也の両親は、度々私の実家に子供を預ける事が多かった。  その頃、私は幼児向けアニメの魔法少女に夢中で、小さな律也と2人でよく観ていた。  律也も魔法少女アニメにハマって、2人でお絵かきをしたりイベントにも言ったっけーー。  あの頃の私は親に魔法少女のなりきり衣装なんかを買ってもらって、それを着て真似っこ遊びもしていたーー。 「でも、もう成人してるのよ?魔法少女なんて……」  とりあえずコスチュームに着替えて、全身鏡の前に立ってみた。 「こんな格好じゃ……とても人様の前に出られない……」  鏡に映る自分の姿を見て愕然とした。  足先が冷えるので毛糸のモコモコ靴下を履き、ダイニングへ向かった。 「サイズは大丈夫か?」 「うん……ねえ正気?毎日この格好をしろって?」 「そういう約束だ。破れば出てってもらうぞ」  オープンキッチンの前にはナチュラル木目の食卓があり、律也はそこで缶ビールを呑みながらノートパソコンを弄っていた。  私が姿を現しても、顔色を変えない。  彼はおもむろにデジカメを取り出すと、断りもなく私に向けてシャッターを切った。 「ちょっと!?…アンタ、何撮ってるのよ!?」  私はびっくりして、顔を真っ赤にしてデジカメを奪おうと彼に襲い掛かるが、軽くかわされた。  彼はいつものニヤニヤ顔をして、私が焦り戸惑っている様が楽しいようで笑っているばかり。 「似合っているから、お前の母親と、ついでに俺の母親にも見て貰おうよ。お前が元気にやっている事が知れて親も安心するだろう?」 「やめてよ!恥ずかしくって、もう実家に帰れないわ!消して!」 「後、お前って漫画のアシスタントできるよな?亜澄姉の同人漫画の原稿、よく手伝ってたろ」 「え?うん、少しなら…」 「じゃあ、俺の書いている漫画の作業も手伝ってくれ」 「律也…漫画描いてるの?そういえば昔から絵が上手だったわね。でも、どうして私が……」 「家賃の対価だ。拒否するなら家から叩き出すぞ。後、共有スペースの掃除と、夕食の支度もしろよ」 「ええ?」 「まさかタダで住めると思っていたのか?厚かましい女だな。家賃や光熱費は俺が払う、食費も渡すから悪い話じゃないだろ」 「う〜ん…」  律也は私の目の前に誓約書をチラつかせ、ニヤッと笑う。  私は微妙な表情を浮かべつつ、魔法少女のコスチュームを着たまま椅子に座ると署名をし、ハンコを押した。
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