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ーー朝まで漫画の作業をしていたらしい律也がようやく起きてきたのは、日曜日の午後3時過ぎ辺り。
「ご飯。」
「私の名前は『ご飯』じゃありません〜」
「腹減った。食べるものないの?」
人の顔を見るなり食べる物を要求してきた律也は、気怠そうに大アクビをしながらダイニングの椅子に座った。
とりあえず、自分が食べる為に作っていた昼食の余り物とコーヒーを挿れてあげると、「サンキュー」と、これまた怠そうに呟いた。
「美森、着替えろ。買い物に付き合えよ」
「え?アンタと買い物?嫌よ。食材ならさっき近くのスーパーで買ってきたわ」
「画材とか色々買う物があるんだ。荷物持ちしろ」
「はあ?なんで私が…」
「どうせ暇だろ、ニートの穀潰しのくせに」
「ニートじゃないです、一応バイトくらいしてます!」
「なんだよ。その太ましい腕は筋肉じゃなくて脂肪なの?荷物でも持てば少しは痩せるんじゃないの」
「アンタって本当に減らず口ね」
「なんだ?お前の写真、実家に送り付けるぞ?」
律也に脅されて、2人で電車に乗って数駅先のショッピンモールへ向かうことになった。
家の中ではボサボサ頭にダサい黒縁メガネ、上下灰色の安物スウェット、アニメグッズのスリッパなのに、外では髪もきちんとセットして、ブティックで揃えたようなお洒落な服、靴ーー、それにキリッとした澄まし顔。
ーー昔から律也はこうだ。
オタク趣味もひた隠し、優等生を気取りニコニコした好青年風で、外面ばかり良いのだ。
私の前ではサイコパス野郎で、一切取り繕わないけれど…。
「2人で出掛けるの、中学生の時ぶりだな」
「ああ〜、律也が魔法少女アニメの映画がどうしても観に行きたいって言い出して、私を隠れ蓑に観に行った時ね。その帰りに律也のファンの女の子に鉢合わせして、あの後、学校で大変だったのよ?」
いつも、疫病神ーーいや、律也のせいで周りの女の子から敵視されたり絡まれるから、避けまくっていたんだよね。
電車の中、入り口付近。
人ひとり分のスペースを空けて2人並んで立っていたが、当然律也が距離を詰めてきた。
「?」
「ここは地元じゃないから、平気だろ」
ーーでも、こんなに接近する必要性あるのか?ジト目で睨み返す。
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