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ショッピングモールから家に帰宅する頃には、もう夜21時を数分過ぎていた。
帰って、ひと息つく間も与えられず、律也はまたアニメのコスチュームを私に突き出した。
私はゲンナリした顔で、もはや文句を言う気力もなく大人しく受け取ると、ハァッとため息を吐いた。
「お風呂、先に入ってもいい?」
「ああ、俺は後で入る。部屋でアニメ観てるから」
どうせ寝るときはパジャマに着替えるんだし、今日はもうこのコスチュームなんて着なくても良いんじゃないだろうか……。
何故か無駄に替えのコスチュームも用意されてあるし…。
脱衣所で服を脱いで、お風呂に入った。
「浴槽が広くて快適…。温かい〜、生き返る〜。ずっと荷物を持っていたから身体中凝ってたのよね〜」
湯船に浸かり、気分が良くなってルンルンだった。
「あっ」
私は、ショッピングモールで入浴剤を買ったことを思い出していた。
荷物はダイニングの椅子に置きっ放しだ。
「……律也は部屋に引きこもってるし、大丈夫よね?」
濡れた身体をタオルで拭いて、裸にバスタオルを巻くと風呂場を抜け出した。
そして恐る恐る、ダイニングルームへ向かった。
「あった、あった」
紙袋の中から箱に入った入浴剤を取り出した。
「荷物持ちしたお礼に、律也が買ってくれたんだよね〜」
正しくは買わせた!だけど。
ウキウキしながら入浴剤の箱を見つめていると、玄関のあたりからドアが開くような音、そして足音がダイニングにじわじわと向かってくる音に気付いた。
「………え?」
すぐにダイニングと廊下を隔てていた扉が開き、濃いブルーのスーツを着た見知らぬ眼鏡男が現れた。
「は?……」
ダイニングに、裸にタオル一枚巻いた見知らぬ女が突っ立っているので、男も目を点にしてフリーズしている。
しかし、20秒ほど固まった後、何かを思い出したかのように声をあげた。
「ああ、律也が言っていた新しい入居者か?」
「へっ?ハイ……あなたは?律也の友達……?」
「ああ。律也に部屋を借りてる、大島だ」
「ええ?他に入居者がいるとか聞いてないけど…」
「そうか?俺には事前にメールで報告があったぞ?」
年齢は私や律也より少し上、くらいだろうか。
きっちりと整えた堅苦しい黒髪にインテリっぽい眼鏡、律也の友達にしては毛色が違うーー。
「……」
彼は難しい顔をしながら、ジロリと舐めるように私の顔から足先を凝視した。
「最近の医療技術はすごいな…。本当に女性の身体みたいだ。…あ、いいや、俺には馴染みがない世界だが…、今時珍しいものでもないし、偏見とかないから」
「………え?なんの話?」
私は顔を真っ赤にさせ、ギョッとした。
「山田さんの複雑な事情なら律也から聞いているから。俺も、律也から部屋を間借りしている立場だし、ルームシェアに文句は無いから。よろしくな」
「よろしくお願いします。…ご、ごめんなさいね。こんな格好で!お風呂に入っていたの…入浴剤を取りに来たのよ」
「そうか。別に気を遣わなくてもいいぞ、律也なんかたまにパンツ一枚で出てくるし。男同士なんだから気兼ねはないだろう。俺、全寮制の男子校出身だから慣れてるよ。はは、しかし、その格好じゃ風邪引くぞ」
「え?男同士…?パンツ一枚?いや、流石にそれはないわ〜。ごめんね、先にお風呂いただいています」
大島の反応に若干違和感はあったが、身体が冷えてきたので、とりあえず慌てて風呂場へ戻った。
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