【薄桜鬼】月のうたかた

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見目が美しい故か女は風間家忠臣である染谷家当主の側室として迎え入れることとなり、時をそうおかずして懐妊した。 欲が深く、野心を抱いて染谷家に入った女は、本来風間家に輿入れすることを望んだのだが、純血でない上に出自が人間との交わりのある家系となれば家臣たちの許しを得られるはずもない。 女に残された道は貴重とされる女児を産むことで、側室という地位から未だ子を産んでおらぬ正室よりも優位に立つこと。 そして女が待ち侘びたその時 ─────。 産まれたのは、珠のような男の子。 『妾の産む子は女子以外はいらぬ。男の子など邪魔なだけじゃ、今すぐにどこぞへやってまいれ』 産婆が取上げた赤子が女子でなかったことに女は落胆すると、柔らかな綿の布に包まれた我が子を一瞥した後、胸に抱くこともなく掌で追いやった。 この後、正室が懐妊したとの知らせを受け、女は屋敷の一室に籠るようになる。 我が子を一度も抱くこともなく、乳すら与えることもしなかったという。 染谷の当主にも母にも愛を与えられなかった子は『志乃』と名付けられ、不憫に思った乳母によって育てられたのだった。
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