おじいさんコロリン

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 ゲートボールが好きなおじいさん。珍しくありません。  人がいいおじいさん。これは珍しいです。その証拠として援用すると、鴨長明が方丈記で、「人の友たるものは富めるをたふとみ、ねんごろなるを先とす。かならずしも情あると、直ぐなるとをば愛せず」といみじくも述べている通り、俗人という者は人を友にする場合、金に物を言わせる者を崇め、親切ごかしな者を優先して選び、必ずしも情の深い者や正直な者を愛おしんで選ぶのではないのです。何故なら俗人は孔子の言葉を借りて言えば、義に喩らず利に喩るからです。現代人はこの傾向が強くなっていますから自分にとって得になる者とは親しもうとしますが、得にならない者とは親しもうとしません。と言うかそういう弱い立場の者を仮令、道徳的に優れていても馬鹿にして相手にしません。元々人間は斯様に差別的でこれは本能でありまして子供のいじめ問題を見れば明白です。まともな生徒はまともな生徒の間では優しいかもしれませんが、まともでない生徒、取りも直さず弱い立場の生徒に対しては優しく出来ず、いじめます。そして大抵の人間は排他性を克服できない儘、大人になり老人になります。ですから本当に人がいい者は珍しいです。  けれども珍しく人がよすぎるおじいさんがいまして真夏の或る日、別にやらなくてもいいのに呆けていますのでゲートボールの試合に備えて少しでも足腰の鍛錬をしようと無理をして山登りをしていました。  自分にとって徒でさえ、きついことなのに暑くて暑くて汗がだらだら出ておじいさんは無理が祟って今にも干からびそうです。  それはそれは過酷なものになり到頭、軽度とは言え、熱中症にかかって、ふらふらになってしまいました。  それで、おじいさんは切り株に腰を下ろして休むことにしました。
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