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「被告人、加賀圭介」
裁判官がそれほど広くない裁判所で大声を上げる。
被害者がいる席の方を見ると年配の女性が加賀のことを睨んでいた。
加賀圭介⋯今回の事件、暴行事件の加害者だ。
その事件は今からおよそ一ヶ月前に遡る。
被害者、佐藤ヒロムが帰宅途中に加賀に裏路地に連れて行かれ、暴行に及んだのだ。そこに裏路地に近い道を歩いていた女性によって事件は発覚した。
女性いわく発覚した当初、加賀が一方的に佐藤を殴っていたのだという。
一旦携帯で警察を呼び女性は勇気を出して裏路地に入り加賀を止めた。
止めに入ったとき加賀は素直に殴るのをやめたらしい。
加賀の顔を見ると顔には大きなアザがあり、鼻や口からは血を流していたという。
そのあと警察が来て加賀は抵抗することもなくそのまま連れて行かれた。
警察と一緒に来た救急車に佐藤を乗せて病院へと急いだが、まもなく救急車の中で死亡したのが分かったらしい。
友人の佐藤が死んだと知ったときは酷く加賀を恨んだが、今は彼に対して何の感情も湧かなかった。
裁判が始まる前加賀が入ってきたとき彼は目に見えてやつれていた。噂によると彼はこの日までほとんど食べ物を口にしていないらしい。
この噂を流すほどに警察官は暇なのだろうか?
意識を思考から戻し後ろ姿を無防備に晒した加賀を見た。
まるでそこに一本の細い木が立っているような後ろ姿、仮に俺がナイフを持ってあいつの心臓めがけて刺しても抵抗はしなさそうな後ろ姿だ。
それほどにあいつの見た目は衰弱しているように見えた。
加賀は裁判官が読み上げる言葉をただ聴いている様子だった。
怒りも泣きもしない⋯あそこに立っているのは人間の加賀であっているんだよな?ロボットとかじゃないよな?
そう思うほどに加賀は動きもしなかった。
数十分後、加賀に判決が下った。
結果はもちろん有罪。
加賀は最後まで喋ることはなかった。
「なぁ、聞いたか?」
「何を?」
「加賀圭介⋯死んだらしいぜ」
「まじかよ⋯死因はやっぱり栄養不足か?」
「いや、どうやら鉛筆で頸動脈に穴をあけて出血多量で死んだらしい」
「嘘だろ⋯原因は?」
「今調査中だけど、おそらく罪悪感からじゃないかって話だ」
「お前もそう思うのか?」
「あぁそう思うよ」
「何で?」
「あいつの手紙を読んだんだよ。『殺してしまい、すみませんでした』って」
「死んだところで何も変わらねぇのにな」
「本当だよ」
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