クロ狐さん

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 セイラはいぶかしそうに眼を細める。黒い薄手のコートに黒いスキニーパンツを身体のラインが出るようにして服を着たそのお兄さんはピアスをたくさん付けていて、ドクターマーチンのブーツを履いている。いかにもの音楽をやってますの風体だが、ギターはケースに入ったままだし、俺を見てくれっていう意気込みみたいなものも感じられない。  何してるんだろうと思いながらセイラは階段下の前にあるバス停の列に並ぶ。バスが来るまで後15分、暖房が効いた温かいバスは行ってしまったばかりだ。寒空の中でジッとしてんのも如何かと思うが、でもバスに乗らなければ高校には行けない。今日は風邪のせいで遅刻するのでこの時間になってしまった。今は11時だ。  太った30代くらいの女の人が「職安はこのバスで行けます?」と訊いて来た。セイラは「はい」と返事をする。視線は男の人に向けたままだ。あまりジッと見たらいけないが、何だか気になる。その時お兄さんが立ち上がって、バス停を見ると目を大きく開けてからセイラの前に歩いて来た。 「お前さ、俺が見えてんの?」  え、何言ってるんだろう。セイラは首をひねる。普通あれだけ目立って座っているんだったら皆が気が付いているだろう。 「見えてます。あの、気に障ったんなら、すみません」  ガン見していたことを謝った。ふっと男の人の後ろで何かが揺れた。んん、あれっ?大きな毛の長い黒い尻尾が付いている。ファッションの一部か。
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