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「買って来たよー、何処で食べる?」
「ああ、ここで食おうか」
「ええ、えええ!ここじゃ目立っちゃうじゃん」
「誰も他人のことなんか気にしてねえよ。ホラ、あのテッシュ配りのお姉さんなんか、ずっとガン無視されてるんだぞ」
うーん、それは少なからず言えてるな。じゃあ、ここで食べるか。床も案外と綺麗だし。セイラはハンカチを出して石みたいなもので出来た床の上に敷くとお尻を置いた。ハンバーガー屋さんの袋から中身を取り出す。
「はい、こっちがタルタル抜きかな」
「ああ、わりいな、お前は名前何て言うの?」
いきなり名前を正面から訊かれたのでセイラは心臓が跳ね上がったようになる。
「水卜セイラ」
「セイラか、高校生かな」
「うん、お兄さんは何て名前?」
ドキドキしながら会話をする。このお兄さんの恰好といい、喋り方といい、人種が今まで知っている男子たちとは全然違う。
「俺は名前はない、あやかしなんだ。クロ狐って呼ばれてる」
まさか、あやかしなんて本当にいるの。そうだとしたら、この黒い尻尾も本物だったんだ。いや揶揄われているだけなのかもしれない。
「うーん、信じられないけどいいや、追及はしないでおこう。どうせ、真実は教えてくれないんでしょう。だからクロ狐さん、仲良くしてね、えへへ、私単純だから、ちょっとビビッてる。あ、コーヒーはミルク入れる?」
セイラは意味不明に口数が多くなった。
「いや、砂糖だけでいい」
セイラはスティックシュガーを渡す。お兄さんは嬉しそうに受け取ってホットコーヒーの中に入れた。
「コーヒーは身体を冷やすっていうけど、やっぱ冬も飲みたいよね」
「セイラ、俺に気を使わなくてもいいよ」
「えっ!?」
「折角さ、こうして知り合えたんだし、気兼ねなく話そうよ」
そうか。それにしても外でフィッシュバーガーを食べるなんて久しぶりだ。小さい時に遊園地で食べたことを覚えているが、中学校、高校では覚えがない。風邪で少し胃がもたれているが、お昼は学食で食べるつもりだったし、このお兄さんに奢ってあげられるくらいのお小遣いだったら持っている。たまに自営業をしているお父さんの手伝いをしてお金も貰っているからだ。
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