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「ちょっ、勇大くん! ここ、まだ廊下……」
玄関を入り、部屋に続く狭い廊下で勇大に押し倒された圭史郎は自分の上にいる勇大の胸を両腕で押し返した。
「廊下だとダメですか?」
「ダメです! まずはご飯を食べたり……」
「オレは圭史郎さんが食べたいです」
真剣なその目がこちらを射抜くように見つめる。狼に狩られたうさぎのような気持ちになった圭史郎は、諦観の息を吐いた。
「……せめて、柔らかいところがいいかな」
圭史郎がそっと腕を勇大の首に廻す。勇大は嬉しそうに眉を下げた。
「ですよね……せっかくのデートなんですから」
勇大はそう言うと、そっと圭史郎の体を抱え上げた。
いつも一人で寝ているベッドに柔らかく降ろされ、圭史郎は緊張と興奮の混ざったよく分からない感情のまま、勇大を見上げた。
「優しくします……出来るだけ……」
出来るだけ、という言葉に勇大の気持ちが出ているようで、圭史郎は思わず笑ってしまう。優しくしたいけれど出来ないかもしれないというその気持ちは、言い換えればこの状況に興奮してくれているということなので、それが嬉しかった。
「いいよ、出来るだけ、で」
圭史郎が笑顔で言うと、勇大がそっと圭史郎に手を伸ばした。
勇大は若いけれど、その顔だしきっとこれまでもモテてきて、経験も多いのだろう。圭史郎の身に着けていた衣服を脱がし、その肌に滑らせる手は手慣れたように思えた。
「圭史郎さん、ここ、触っていいですか?」
圭史郎を見下ろし、胸に指先を触れさせながら勇大が聞く。
「……勇大くんが、触りたいと思ってくれるなら……どこでも、いいよ」
圭史郎が答えると、勇大は慌てて、そうじゃなくて、と圭史郎を見つめる。
「オレ、男の人を抱くの初めてだし、でも、圭史郎さんには気持ちよくなってほしいし……だから、どこ触ったらいいかなって、思って……」
恥ずかしそうに俯く勇大に、圭史郎は、ふっ、と笑ってから手を伸ばした。
「勇大くんが触れてくれるなら、それだけで幸せだよ」
「でも、オレはちゃんと圭史郎さんを抱きたい」
「……教えるよ」
圭史郎はそう答えると、不安そうな表情の勇大にキスをした。唇を合わせ、次第に深く繋ぐ。舌を絡めて、息が上がるようなキスを終えると、勇大の顔は嬉しそうに緩んだ。
「……圭史郎さんのキス、ホント上手くて嫉妬する」
勇大は、そう言うと唇を胸に寄せた。胸に埋まる小さなピンク色を舌で舐められ、圭史郎の体がびくりと跳ねる。と、同時にピンクの突起が顔を出し、次の刺激を待つように尖った。勇大はそれを唇でもてあそぶように食む。
「んっ……」
圭史郎から色のついた息が漏れると、勇大は嬉しそうにもう一つの突起に指を伸ばした。指の腹で捏ねるように刺激され、更に声が漏れる。
「そこ、ばっかり……だめっ」
圭史郎は男の割に胸が弱い。そこだけでいってしまってはさすがに情けないので訴えると、勇大がこちらを見て優しく笑んだ。
「でも、気持ち良さそうですよ」
「ちがっ……」
「違わない。ほら、こんなに尖ってる。可愛い。もっと舐めてたいです」
勇大は再び圭史郎の乳首に吸い付いた。その刺激が大きすぎて、圭史郎がシーツを握りしめる。そうしていないと、これだけで頭の中が白んでしまう。
「やだ、勇大くん……こっちも、おねがい……」
圭史郎は自ら勇大の手首を掴み、自分の下半身へと寄せた。勇大が驚いた顔でこちらを見やる。
自分にもついているそれを触れと言うのはやはり萎えてしまっただろうか――そんなふうに不安になって圭史郎が泣きそうな目で見上げると、勇大が、そっか、と口を開いた。
「圭史郎さんだって男ですもんね。あまりにもキレイだから性別忘れてました。こっちだって触ってほしいですよね」
勇大はそう言うと、なんの躊躇もなく圭史郎の中心に指を伸ばした。
「これ……自分のする時と同じでいいのかな? 痛かったら言ってください」
勇大は圭史郎にキスをしてからそう言った。そして圭史郎の中心を上下に扱く。ゆるゆると優しい動きはそれだけで気持ちよかった。
勇大がこうして自分を高めてくれている間に自分で準備をしようと、圭史郎が下半身に手を伸ばす。少し腰を上げ、臀部のはざまに指を伸ばした、その時だった。急にその手を勇大に捕らわれる。
「圭史郎さん、何してるんですか?」
「何って……準備、を……」
「教えるって、言いましたよね」
「言ったけど……これは、その……割と面倒だし……」
事前に準備をする時間があれば別だったのだが、帰りしなに襲われたので、何も出来ていない。圭史郎が言うと、勇大は、わかりました、と頷いた。
「オレが面倒って思うって、圭史郎さんは思ってるんですよね。じゃあ、覚えるので、オレに見えるように分かりやすくやってください」
「……え?」
「ね、圭史郎さん」
勇大は悪戯めいた顔で笑うと、圭史郎の上から降りるように後退る。圭史郎は体を起こし、そんな勇大を見やった。
「ホントに……?」
「はい。お願いします」
困惑したまま聞くが、勇大の態度は変わらない。仕方なく圭史郎はベッドに座り込むと膝を立て、両足を開いた。それから自分の先走りを指先に取り、後孔にゆっくりと忍ばせる。
「うわ……圭史郎さん、この眺めすごいです」
ベッドに座り込んで見ている勇大がごくりと息を呑む。
「そういうこと、言わないで……黙って見てればいい」
圭史郎も恥ずかしさの限界を超え、もう自棄になっている。徐々に準備が整っていくのと同時に、圭史郎は訳もなく泣き出していた。
すぐそこに勇大がいるのに自分の指で気持ちよくなってしまっている自分の体と、ただ見ているだけの意地悪な勇大、両方に腹が立っていた。こんなことなら、セックスなんかしなきゃよかった、と思い始めた、その時だった。
「すみません、もう見てるなんて無理です!」
勇大が圭史郎の肩を掴み、そのままベッドへ沈める。噛みつくようにキスをされ、しだいに圭史郎の涙は止まって行った。
「ゆ、だい、くん……?」
「圭史郎さんは見てろって言ってたけど、ごめんなさい、無理でした! 圭史郎さんがどうやってたか全然頭に入ってこなくて、色っぽい顔に見とれてました……でも、圭史郎さんのこと抱きたいです」
挿れてもいいですか、と耳元で勇大が囁く。その言葉に否定の言葉など持ち合わせていなくて、圭史郎はただ頷いて、勇大を受け入れた。
鼻先を何かがくすぐっている感覚で、圭史郎は目が覚めた。ゆっくりと目を開けるとすぐそこに勇大の顔がある。自分をくすぐっていたのは勇大の前髪だったらしい。
朝日が当たると茶色になる髪、長いまつげ、昨日のキスの痕が残る首筋――今、きっと自分しか見られない勇大を見ているのだと思うと、嬉しくて圭史郎はしわりと目元が熱くなるのを感じた。
「泣いちゃうんですか、圭史郎さん」
「勇大くん……起きてたの?」
「少し前に。こんなに近くで圭史郎さんのこと見られるのってオレだけかもしれないと思うと嬉しくて。近すぎましたか?」
勇大が鼻先を圭史郎のそれにぴたりと付ける。それを見て、圭史郎が緩く首を振った。
「もっと近くていいよ」
圭史郎の言葉に勇大は微笑んでキスをする。
きっとこれからは、もっと近いところに居られる。
そんな漠然とした、でも予感のような確信を胸に、圭史郎は再び目を閉じた。
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